バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

電話

 トールが訪ねてきた日。

 いきなり見たこと聞いたこともないオリジナル魔法【音声拡大(メガホン)】を使用しバカでかくなった声で国全体に呼び掛けた。

 そしてみなが集まるとそこで【次元収納】を発動し次々と狩ってきたドラゴン数頭、大量の鉄鉱石を取り出したのだ。

『これで、世界で一番の剣を作ってくれへん? そしたら、このいざこざ解決するで』

 飄飄とした特徴のある言葉遣いで、とんでもないことを言った。

 それなのに儂は、いや儂らドワーフは期待せずにはいられなかった。

 そこから時は流れ半年後。

 予感は的中した。

 トールは魔王を討ち果たしたのだ。

 団結には程遠い他種族をまとめ上げて。

 結果、勇者パーティに所属していた者達は、みな功労に準じて恩賞が与えられた。

 そこで儂が願ったのは、廃業となった工房の復活と散り散りとなっていた仲間達を国に迎えること。

 通ることはない。
 そう思っていた。
 だが、トールの後ろ盾とその考えに共感したカルファ、チィコ(意味をわかっているかはわからないが)のおかげで叶ったのだ。

「懐かしいの……っと、それよりも電話だな」

 懐かしい日々を思い出しながらも、電話を掛けた。

《はい、月乃屋商店です。どういったご要件ですか?》

 電話を掛けてみたが、声の主は先程のおなごではなく、迫力のある低い声色の男だ。

 もしやこやつが店主かの。

 しかし、どうやって先程の事柄を説明するか。

《ん、いたずらか? おーい!》

「あ、そのだな……」

 ええい、何を驚いておるのだ。ドンテツよ。寧ろ違う者が出ることの方が普通だろう。

 店主であれば、それだけ話が早く進む。

 臆することなく、普段通りでいこう。

《ん? なに言ってるのか、わかんねぇぞ! やっぱ、いたずらか?》

 電話越しの男は語気を強める。

「あ、いや、すまん!」

《はぁぁ? すまん?》

「うむ、返事をするのが遅れたからの。用件はそちらの店を一度でいいからと見てみたいと思い電話した次第だ」

 自分が伝えたいことは言えた。
 あとは、許可を貰えるのかどうかだの。

《はぁ? うちの店を見たいだと? 意味わかんねぇことを言いやがって! もしかしててめえ、新手の詐欺だな!》

「詐欺? 詐欺ではない! 少しでいい。見せてくれんか?」

《だから、意味がわかんねぇって言ってんだろ! それにな! 詐欺じゃねぇっていうやつが一番怪しいんだ!》

 困った。実に困った。
 別に怒らせたくて、電話したわけではないのだが。

 ただ、純粋にどのような仕事をしているか見たいだけ。
 それだけなのに。

 儂が電話越しに怒気を強める男に困っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
 
《なになに? お父さん、大声出して。誰から電話?!》

《知らん、おかしな口調のやつがうちの店を見たいとか言ってやがる!》

《おかしな口調? 私が出ようか?》

《いや、俺がちゃんと断る! たぶん、詐欺だ。高齢者を狙った詐欺に違いねぇ》

《んもう! そんなこと言って! ショート動画の見過ぎ! もしお客さんだったらどうするの? とりあえず私に代わって!》

《ちょ、ちょっとお前、待てって――》

《もしもし、お電話代わりました。月乃屋商店の月乃雪子と申します。何のご要件でしょうか?》

 おお、少し落ち着いてはいるがこの通る声色。間違いない、あの物凄い形相で駆けてきたおなごだ。

 そうか、先程会話していたのが、父親だったのか。

 少し失礼な物言いになってしまったのかも知れんな。
 
 いや、儂の口調が変なのか……どれ少し変えてみるか。参考にするのは、そうだの。

 トールがいいだろう。

「こんにちは、いやおたくの商品を目にして、虜になってもうてん。せやから、一回見してくれへん?」

《……お父さん、これはやばい》

《だから言っただろ! やばいやつだって》

《うん、こんな面白いなんて反則過ぎる……》

 儂の口調を耳にしてから、二人は切ることもなくコソコソと会話をしている。発音が違うらしい。

 その違いはよくわからないが、どうやらこれでもだめだったようだ。

 つくづく縁がないの。この商店とは。

 儂が落ち込んでいると、囁くおなごの声が聞こえた。

《いや、待って……何か聞いたことがある声かも》

《聞いたことがあるってお前、そんな偶然があるわけないだろ》

《うん、わかるけど、まだこれで繋がったままなら確かめてみる!》

《いや、お前……切ってなかったのか》

《え? 当たり前でしょ?》

《ん……ああ、まぁいい。早く確かめろ……どうせ相手は切っている》

《うん》

《切ってなかっのか……》という、反応には完全同意する。儂も本人を前にして、笑いを堪えてまで会話することはないからな。あやつら以外に。

 儂の脳裏にはトール、カルファ、チィコ。そしてドワーフのみなの顔が浮ぶ。

《す、すみませーん……繋がっていますかー……?》

 何やら、一応気を使っているらしい。
 それならば、儂もここは大人の対応をしなければいけない。

「ガハハ、大丈夫だ。儂も少し別のようがあっての。よく聞いてなかった」

《あああああぁぁーー! やっぱり、さっき私の髪留めを拾ってくれた人ですよね? 先程はすみません! ちゃんとしたお礼もせずに、というか連絡先も教えていなかったのに、お礼をするなんて意味のわからないことも言ってましたよね? 私……》

「うむ、そうだな。だが、お礼なんぞ気にせんでいい。儂が拾ったのは偶然だからの」

儂の言葉に対して《ありがとうございます~!》と応えると、先程と同じように父親と話を始めた。

《ほーら、お父さん! 繋がってたよ? しかも、髪留め拾ってくれた人だし》

《あー、お前が朝から探し回ってた髪留めな。あれを見つけてくれたのが電話先の相手なのかー……チッ、切ってくれた方が良かったぜ……受けた義理は変なやつでも返さないといけねぇじゃねぇか……ったくよ》

 なんというか、丸聞こえな上かなり誤解を受けている気がするが。

 まぁ、別に気にするほどのものでもないか。

しおり