バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

お出掛け

 私はカルファ。

 誇り高きエルフ族の王女であり、勇者一行のブレーンにしてこの世の叡智を全て知りたい探求者。

 今日は先日、お友達となったコンビニエンスストア【フォムリーマート】の女性店員、沢下舞香さん、二十四歳とまだ見ぬ未知を求め近所の探索する予定となっている。

「……少し早く来すぎたのかも知れませんね」

 待ち合わせ場所は、トール様のマンションから一番近い駅前、私は念の為、集合時間の二十分前に到着していた。
 
 ちなみに、この場所では私達の世界にはない科学とやらの技術を駆使し、電車という箱型の鉄の塊を動かしている。その他にも仕組みは違うが油を燃やし動力とする車という鉄の塊などもある。

 車に関しては、私達の世界で言うところの馬車で。
 電車というのは、その規模を大きくしたものらしい。

 トール様が言うには、どちらも雷魔法を使うことが出来れば誰でも容易に動かすことが出来るようです。

 ただ、車は資格やルールが存在し試験を受けて合格しないと道を走ることも許可されないとのこと。

 電車に至っては、分刻みでスケジューリングされており、一日の利用者数は一万人規模で。

 魔法がないから、文化レベルは劣っているに違いないと思っていたのですが、ある方向性では明らかに私達の世界を凌駕している。
 
 なんというか人族というのは面白いですね。

 それでいて、トール様のような稀有な存在もいるのですから。

 あの自らをひーちゃんと名乗る存在も人族でしたね。

 やはり、面白いです。

「お待たせしましたー! って、ふぁぁぁあ! カルファさん、やっぱりめちゃ綺麗ですね! 絵画、絵画みたいですよ!」

「絵画って、ふふっ。私はここにちゃんと実在していますよ? 舞香さんは面白いですね」

 どうやら感性は、どちらの世界の人族も同じなようです。
 私達の住まう世界でも、普段からもえエルフ族を見た人族は口を揃えて絵のようだと言うのだ。
 
 もちろん、エルフの特徴である耳は魔法で変えていますが。

「カルファさんって、トールさん達といる時とは、随分印象が違いますよね!」

「うーん、そうですか? 特に意識したことはありませんが……」

「違いますよ! なんか知的なお姉さんって感じです」

「ふふっ、私がお姉さんですか! ありがとうございます」

 まさか齢二百五十を越える私がお姉さんとは、嬉しい限りですね。

 私がクスリと笑みをこぼすと、舞香さんはスマホの画面を見せてきた。

「はーい! じゃあ、えーっと何処から行きますか? ちゃーんとリサーチ済みですよー! エルフさんなら、やっぱり図書館とか、本屋さんですかね?」

「図書館、本屋……? ということは、本が読めると言うことでしょうか?」

「はい……? もちろんですよ!」

「そうですか……そうなんですね! やはり、この世界に来て良かったぁぁーー! ぜひ! さ! 早く行きましょう! 図書館と本屋とやらに!」

 私は感情が昂ぶるのを抑えきれなかった。

 文化や歴史、現在までに至るまでの発展の道。

 その種族の全てが記載されていると言っても過言ではない本がこの一般人であろう少女にも閲覧する権利があることに。

 やはり、文化レベルがとてつもなく高い。

「わ、わかりました! じゃあ、早速行きましょう!」

 舞香さんは少し戸惑いを見せながらも、笑顔を弾けさせ私の手を引いた。



 ☆☆☆


 
「こんなに人がいるのですね……」

 ホームという場所には、私が考えていたよりも人がいた。それも身分や性別、年齢なども関係ない。

 よほど治安が良くないとありえない光景ですね。

「治安がいいのですね……この国は」

「はい、たぶんこの世界でも一二を争うくらいにはいいと思いますよ!」

「そうですか、色々と学ばさせて頂きますね」

「学ぶ……ですか? エルフ族で魔法も使えるのに?」

「はい、どうすればここまで治安が良くなるのか気になりまして」

 私達の住まうトワルフの森は治安こそいいが、魔法に長けた種族な上、寿命が長いことで閉鎖的になっていた。

 それが種族特有の思想を生み、争う火種となったのだ。

 どの種族も自分達より劣るという、自惚れでしかない思想。

 とはいえ、魔法を使えることで優位性が変わる世界で、自惚れないように生きることの方が難しかった。

 この私自身もトール様に声を掛けてもらわなければ、人族どころか、エルフ族以外の種族を見下していたままだったのは想像に容易い。

「へぇーそうなんですかー……魔法があればパパっと解決なんて考えていちゃってたので、ちょっとびっくりしています! なんていうか、異世界でも色々とあるんですね」

「ふふっ、パパっと解決したいのですが。そうですね、色々ありますね」

「ぐぬぬぬ……気になっちゃいますね!」

「うふふ、知りたいですか? 大した話ではないですが、電車? とやらを待っている間にお話しましょうか?」

「えっ、いいんですか!? ぜひお願いします!」

「はい、ではお話にしますね――」

 私は舞香さんと、トワルフの森で過ごした日々や日本に来て驚いたことなどを語り合った。
 

しおり