23.さらなる進化
次の日の朝、僕はまたいつものように森にやってきた。
やることは変わらない。
「いたいた、こんなところに隠れてたか」
岩が重なり、影となって死角になっている隙間にスライムを見つけた。
そっと両手を差し込んで、ひんやり冷たいぷよぷよした体を掴む。
そして、目の高さまで持ち上げて、激しく揺さぶってやる。もう勘弁してくれと悲鳴を上げてるかなってくらいまでずっと。
「——テイム!」
慣れたものだ。この方法なら簡単にテイムできる。
色々と試してきたが、今までに失敗したことは不思議と一度もない。
スライムは最も従魔にしやすいモンスターだから、当然と言われたらそうなのかもしれないけど。
「君の名前は、プヨヨンにしようかな。僕はカイトで、こっちはコロマルだよ」
これから合体してもらうとはいえ、せっかく仲間になってくれたのだからと一人一人忘れずに名前を付けている。
これは、テイマーになってからテイムした四十体のスライムみんなにやっており、全員のことをちゃんと覚えている。
僕は勉強が得意じゃないし、記憶力もいい方ではない。
けれど、従魔になってくれた状況だったり名前だったりを事細かに記憶している。
これも超特化テイマーの特性なのかもしれない。
「じゃあコロマル、お願いね?」
コロマルにプルルンと合体してもらう。
体を伸び縮みさせながら、プルルンが近づいていく。
もはや大きさが違いすぎて、お邪魔しますと小屋に入っていくかのようだ。
合体を終えると、また少しコロマルがでっかくなった。
これでヒュージスライム(38)。いったいどこまで巨大化していくのだろうか。
ガサゴソと茂みの中を探索し、テイムからの合体。
木の裏で、葉っぱの陰に隠れているスライムをテイムして合体。
小さな白い花がたくさん咲いているお花畑の中で、ぐっすり眠る可愛らしい子をテイムして合体。
森の浅いところを駆け回り、どんどん見つけていく。
あっという間に十二体を合体させて、魔力はあと1を残すのみ。
最後の一体は、岩の陰に隠れているつもりだったのだろうが、お尻が見えちゃってるドジなスライム。
パッと素早く捕まえて、強引に揺さぶってやる。
「——テイム!」
コロマルに合体させて、これでおしまい……と、なるはずだった。
「……へ? え、えええぇ! コロマル、どうしちゃったの!」
コロマルの体表がぼんやりと青白い光を放つ。
いったい何が……そう思った直後、僕より少し大きいくらいだったコロマルの体が、一瞬にして二倍くらいに膨れ上がった。
近くからでは、もはや頭頂部が見えない。この巨大さをどう表現したらいいだろうか。
一年分のスープ?
小さな池の水をまとめて固めた?
言い表すのが難しいけど、とにかくでかい。薄い青の体も、少し色濃くなったような。横幅を考慮すれば、オークなんかよりも圧がある。
目の前に、でっぷりと太った巨大な化け物が現れた。
"カイト見て! コロね、すんごくおっきくなったー!"
うん、そうなんだけどね。おっきくなったー……じゃ、すまされないことになってるのよ。
そうだ、鑑定しないと。
【名 前】 コロマル
【種 族】 スライムジャイアント(50)
【レベル】 11
【魔 力】 33/33
【筋 力】 33(50)
【防御力】 33(50)
【スキル】 縮む、元に戻る
「な、なにこれ?」
ステータスを見ると、種族がスライムジャイアントに変わっていた。
スライムで1、ヒュージスライムで2ずつ上がっていたステータスが、レベル1ごとに3も増加している。
「ちょっと待って。すごいよコロマル、スキルがあるんだけど!」
"ねー? コロもびっくりー!"
そうかそうか、コロマルも驚いたのか。
のんびりしてる性格だから、とてもびっくりしているようには思えないけどね。
しかし、スライムがスキルを覚えるなんて。
スライムジャイアントになったのだから、厳密にいえばスライムとは違うのかもしれないが、これはすごい発見だ。
それに、もしかすると……。
「このスキル―—縮むってやつさ、使うとどうなるの?」
"あはは、カイト面白ーい! そんなのコロも分かんないよー!"
「笑わせるつもりはなかったんだけど。もしかして、普通のスライムと同じ大きさになれたりする? ちょっとやってみて?」
"よーし、やってみるねー! ―—縮む"
コロマルがスキルを使うと、一瞬で小さくなってしまった。
少し体の色が濃い気がするけれど、大きさは普通のスライムと変わらない。
【名 前】 コロマル
【種 族】 スライムジャイアント(50)
【レベル】 11
【魔 力】 30/33
【筋 力】 33(50)
【防御力】 33(50)
【スキル】 縮む、元に戻る
なるほど、消費魔力は3か。
体が小さくなってもステータスに変化はないらしい。
「今度は元に戻るを使ってみて」
"はーい! ――元に戻る"
スキルを使うと、コロマルの体がボヨンと膨張し、僕の身長の二倍を軽く超える大きさになった。
一瞬で目の前に巨大なスライムが現れるものだからびっくりだ。何も知らない人の前でやったら腰を抜かすだろう。
「すごい、すごいよコロマル!」
"ほんとー? よく分かんないけどうれしー!"
新しく覚えたスキルのおかげで、抱えていたコロマルの問題は解決できそうだ。
元に戻るときにも、魔力は3使うみたい。
ぐんと伸びたステータスのまま、小さくなって戦う方が強いのか。それとも、大きな体を活かした方がいいのだろうか。試したいことがたくさん増えてしまった。
いつも以上に放課後が楽しみだ。
そろそろ学校に行く時間。
コロマルに再び小さくなってもらい、家に戻る。
道中、気になって試しにコロマルを持ち上げてみたら、驚くことに普通のスライムとほぼ変わらない重さだった。
何がどうなっているのか分からないが、これもスキルの効果なのだろう。
もうリアカーを使う必要はなさそうだ。
「ただいまー! ねえママ、見て。ほら!」
家に到着。
さっそく腕の中に収まるようになったコロマルをママに見せる。
「あら、新しいスライムをテイムしたのね。コロマルちゃんはどうしたの?」
「ふっふっふ、分かってないなーママは。普通のスライムと変わらない大きさだけど、これがコロマル。スキルで小さくなれるようになったんだ! ほんの少し色が違うでしょ?」
ママがコロマルを抱え、首を傾げながら色の違いを見極めようとしている
でも、見慣れていないからか、ほんと少しの差には気付けないようだ。
「スキルを覚えちゃうなんて、コロマルちゃんたら偉いわよ〜。チュッチュッ。可愛いんだからもう!」
"カイト助けてー!"
ママの好き好き攻撃に耐えかねて、コロマルがジタバタと暴れている。
僕も昔はよくやられたなぁ。ぎゅっと抱きしめられて、顔中にキスされるんだよ。
「ママったら、コロマルが可哀想だよ」
「いいじゃないの。それよりカイト、早くご飯食べないと遅刻するわよ?」
「……あっ!」
朝食は、この街の名物にもなっているトリージュだ。
輪切りのイモを香ばしく焼き、チーズクリームのソースをかけて、甘酸っぱいジャムが添えてある。
夕食として出てくるときはイモと一緒に腸詰めや肉団子が和えられていて、僕はそっちの方が好きだ。
「いただきまーす!」
カリッ、ホクッと心地よい食感。
濃厚なクリームをベリーの爽やかさが引き締めてくれる。
口いっぱいに詰め込み、喉につかえそうになったところで、少しぬるくなったスープとともに流し込む。
「行ってきまーす!」
食べ終えたら、カバンを背負って学校へ向かう。
最近の朝は大忙しだ。
今日もまた鬼ごっこが始まる。
……はずだった。