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19.無限の可能性

"できたぁ! すごいやカイト! コロたち、大きくなって強くなったよー!"

 コロマルは大はしゃぎしているが、僕はまた間違ってしまったんじゃないか?
 ステータスを確認したし、目の前のスライムが繋がりからもコロマルであることは確かだ。
 ヒュージスライムとなり、強くなった。
 13歳の僕が、手のひらを合わせて両腕で丸を作ったくらいの直径から、指先が少し離れるくらいまで大きくなった。
 でも……。

「プ、プルリンはどこにいったの……? もしかして僕、あいつを犠牲にしてしまったんじゃ?」

 自分のしでかしたことが怖くて、震える声で尋ねる。
 プルリンの命を糧にして、コロマルを成長させたんじゃないか……そう考えるのが自然だろう。

"んー? プルリンはねぇ、コロと一緒になったみたい! 大丈夫だよカイト。コロたちは嬉しいんだから。これはね、コロたちが望んだことなんだぁ"

 あっけらかんと答えるコロマル。
 強くなることが望みで、それを僕が叶えてくれた……そういうことらしい。
 親方の言葉――テイマーとしての覚悟か。
 従魔はテイマーにとって宝に等しい。大切な存在だ。
 命じれば、主人のためにその身を差し出す。僕もまた、従魔のために体を張る。まさに、一心同体の関係。
 コロマルが言っているのは、従魔同士も強くなるためならば、お互いのために協力する……そういうことだろうか?

"ねえカイト、もっと大きくなれるかなぁ? オークなんかよりもずっとずーっと大きく! さっきのカイト、悲しそうだったよ。だから、コロたちがやり返してあげる!"

 気持ちは嬉しいし、頼もしいけれど、僕の召喚枠は2だ。
 期待に応えてあげたいのは山々だが、これ以上は難しい……よな?

 【名 前】 カイト・フェルト
 【適 性】 スライム超特化テイマー
 【レベル】 12
 【魔 力】 10/12
 【筋 力】 23(8)
 【防御力】 23(8)
 【召喚枠】 1
 【スキル】 テイム、モンスター鑑定

 自分のステータスを見てみると、ヒュージスライムになっても加算される数値は二倍のようだ。
 それよりも……。

「嘘でしょ? 召喚枠が余ってる!」

 夢でも見ているのだろうか。そんな都合のいいことあるわけない……なんて思ったら、まさしく都合のいいことが起きていた。
 テイムに使う魔力は1。つまり、あと10回も合体できる。
 レベルが上がれば、魔力の最大値は増えていく。
 魔力は体を休めているとき、とくに寝ている間が一番効率よく回復する。
 もし無限に可能なら、明日になればまた同じように森に来て、どんどん合体させていって……僕は恐ろしい早さで強くなれるということに……。

「コロマル、どれくらいまで大きくなれるの?」

"えーっ? カイトが分からないならコロも分かんないよー?"

 まあそうだよな。やってみるしかないか。
 少し重くなったコロマルを抱えて、再び走りだす。

 テイムして合体。
 テイムして合体。
 コロマルがどんどん大きくなっていく。

 テイムして合体。
 テイムして合体。
 抱えるのが難しいほどの大きさになってしまった。
 地面に降ろして、一緒に走る。

 そして、12体のスライムをテイムし、全ての合体が終わった。
 自重で半球状に潰れてしまっているが、コロマルの頭頂部は僕のへそ辺りまで達している。
 この巨大な姿をスライムだって説明したところで、誰が信じるだろうか。

 合体してくれとお願いしたら、みんな少しの躊躇(ちゅうちょ)もなくコロマルと体を密着させ、一つとなった。
 怖いとか、嫌だとか、そんなマイナスの感情を抱いていた者は一人もいない。
 むしろ、ワクワクしていたり、嬉しそうだったり、これを待ってましたと言わんばかり。
 モンスターにとって、強くなることはそれほどに価値のあることなのかもしれない。
 だからこそ僕も、迷いなくお願いできた。

「今日はここまでだね。もう魔力が無くなっちゃったよ。ふぅ、ヘトヘトだぁ」

 魔力を使うのはとても疲れる。
 体から力が抜け落ちていくような感覚だ。 
 さて、コロマルはどうなったかな?

 【名 前】 コロマル
 【種 族】 ヒュージスライム(12)
 【レベル】 1
 【魔 力】 2/2
 【筋 力】 2(12)
 【防御力】 2(12)
 【スキル】 なし

 これがレベル1のステータス?
 スライムだったら、レベル12なのと同じ。
 移動する速さも、僕が歩くのとほぼ変わらない。
 合体するにつれヒュージスライムの横の数字が増えていたから、僕の予想は正しかったみたいだ。
 こんなことができたのも、おそらく超特化のおかげだろう。
 レベルが上がればどうなるのか確かめたかったが、時間を忘れて駆け回っていたので空が暗くなり始めている。
 そろそろ森が危なくなる頃だ。

「僕ら、本当に最強になれるかも!」

 前に進んでよかった。
 僕はまた、僕を好きになれそうだ。

"あははっ、カイトは最初からそう言ってたよ?"

 何を言ってるの……と、いった感じで、コロマルが首を傾げるように体を横に折り曲げる。

「ふふっ、そうだったね。さて、そろそろ帰ろうか。パパとママにコロマルを紹介しなきゃ!」

"パパさんとママさんかぁ。えへへ、楽しみだなー!"

 森を後に、街中を歩く。
 白い石畳は茜色に染まり、夜の訪れを告げる街灯に照らされている。
 僕の後ろを、コロマルがズリズリと這いながらついてきて、そのコロマルを見た人々がギョッと目が飛び出しそうなくらい驚いていた。
 ママとパパはどんな顔をするだろう?

「ただいまー! ごめん、遅くなっちゃった!」

 家の外にまでご飯のいい匂いが漂っていた。
 靴を脱いで、リビングへ向かう。

「おかえりカイト。パッセさんのところに寄って来たんでしょ? お礼はちゃんと言って……えっと、後にいるのは何?」

 ママは今日、ザンブが戻ってくることを知っている。
 学校での出来事ではなく、間接的にパッセの親方の話をするあたり、気を遣ってくれてるんだと思う。
 それよりも、コロマルを見て時間が止まったみたいに固まってしまった。
 ママと僕の身長はほぼ変わらない。いや、ママの方が少しだけ高いか。そんなママの半分ほどまで迫る大きさのスライムがいるんだから、そりゃそうなるよね。
 普通のスライムなら膝下くらいだもん。

 ……あれ、そういえばリビングにはパパもいたはずだけど。
 ふとテーブルの方を見てみたら、口をポカンと開けて、ママと同じように固まっていた。

「僕ね、またテイマーとして頑張ることにしたんだ。この子はコロマルだよ。挨拶できるかな?」

 コロマルが縦に体を伸ばし、ペコリとお辞儀をする。
 張り切りすぎたのかな。パパよりも背が高くなったもんだから、パパもママもなおさらびっくりしちゃってるよ。

「あーっと、なんだ? その、まあ、とりあえず座れや」

 パパに促されて隣に座ると、コロマルから視線を逸らさずにママが夕飯を運んでくる。
 そして、ママも席につく。
 お腹がペコペコだ。この料理を前にして、騒がない腹の虫などいるのだろうか。早く食べろとグーグー鳴っている。

「いただきまーす!」

 今日もママのご飯は美味しい!
 パリッと皮目が香ばしい鳥のグリルは、ハーブと一緒に揉み込まれていたようで複雑な味がする。
 その余韻に浸りながら、蒸した芋をハフハフと頬張(ほおば)れば、口の中に幸福感が広がっていく。バターが塗ってあるんだな。
 あー、いけない。勢いよく食べちゃったから、喉に詰まりそう。スープで流し込まないと。

「はぁ、この状態の俺らを見て、よくもまあすんなりと食えるもんだな。たくましいというかなんというか」

「そうね、色々と説明して欲しいわ。パッセさんの工房には寄ったんでしょ? コロマルちゃんは……なんというかその、ずいぶんと大きいみたいだけどスライムなのかしら?」

 呆れた顔で僕を見つめるパパとママ。
 話したいことがたくさんあったのに、食欲が勝ってしまった。

「僕ね、スライムテイマーではあるんだけど、スライム超特化テイマーなんだ。コロマルの種族はヒュージスライムなんだけど、おそらく超特化が影響してると思う。順を追って説明するね……」

 超特化テイマーが他のテイマーと違うところ。
 今日、学校でザンブに何をされたか。
 パッセの親方とダグラスさんに相談して、前に進めたこと。
 そして、森で何が起こったのか。
 全て包み隠さず話し終えた頃には、夕飯から立ち昇る湯気がなくなっていた。

「どうりで……スラマルとコロゾーのときもそうだが、頭が良すぎると思ってたんだ。超特化ねぇ、納得いったぜ」

「明日からの学校は大丈夫なの? ママも一緒に行ったっていいんだからね?」

 パパが腕を組みながら大きく(うなず)く。
 ママは、僕よりも辛そうな顔で心配してくれている。

 実は、帰り道で今後について考えていた。
 ダグラスさんとパッセの親方に言われたことも踏まえて、自分なりの答えを出したんだ。
 正しいかは分からない。
 だからこそ、パパとママに相談してみよう。
 勝手に行動して間違えるのは、もうこりごりだから。

「パパとママに聞いて欲しいことがあるんだ……」

 自分が置かれている状況を打開するために、今後どう動いて何をするべきか。話し終えると、二人とも難しい顔をしていた。
 でも、パパはパパなりの意見をくれて、ママは否定はしながらも最終的には納得してくれた。
 これで明日も学校に行ける。

 ご飯は冷たくなってしまったけれど、ママの料理はそれでも美味しい。
 全て平らげて、食器を台所に持っていく。

「コロマルちゃ〜ん、ちょっと来てくれる〜?」

 お腹をさすりながら、パパの隣でソファーに座ってテレビを見ていると、コロマルがママに呼ばれた。
 僕には、これから何が起きるか分かる。

 ……ほらね?
 視界の端で、体の中に食器を突っ込まれるコロマルの姿が見えた。

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