8.可愛い家族
森の中を駆け回り、スライムを見つけては倒していく。
指示を出し、スラマルとコロゾーで交互に体当たりをさせながら、繰り返し繰り返し。
だけど、20体くらいやっつけたところで、とんでもないことに気づいてしまった。
獣を狩るハンターも、こんなふうに動きを最適化していったのかもしれない。
「いくぞコロゾー! メテオアタックだ!」
右手に持ったコロゾーを振りかぶり、スライムに向かって投げつけた。もちろん、加減はしている。体当たりより少し速いくらいかな。
体を丸く固めたコロゾーは、まるで天から降ってきた隕石だ。
激突して、敵をぺっちゃんこにしてしまう。
そのまま弾んで宙に浮かんだコロゾーは、体を広げて空気との接触面積を増やして速度を落とす。
体を柔らかくしながら衝撃を吸収すれば、見事に着地成功というわけだ。
最初にスラマルを投げたときに、ゴムボールのようにバウンドしながら、木にぶつかって止まるまで転がっていってしまった。
スラマルが体を震わせて怯えていたので、何かないかと試行錯誤した結果、この空中ブレーキを考えついた。
今では楽しい楽しいと喜んでいる。
「完璧じゃないか! よくやったな、偉いぞコロゾー!」
頭のいい子たちだ。もうすでに教えたばかりの空中ブレーキをマスターしてしまった。
"ご主人もナイスコントロールでしたぜ!"
コロゾーが僕を称賛しながら体を揺らす。
我ながら、凄まじいコンビプレーだと思う。
敵意に疎いスライムだからこそ、近づいたところで襲われる心配はない。
狙いを外さない距離まで駆け寄って、スラマルとコロゾーを交互に投げるだけ。
こっちは体を固めているので、柔らかいスライムの上に落ちたところでダメージも受けない。
もはや、投げるというより叩きつけるのほうが正しいのかもね。
僕の体力が続く限り、恐ろしい早さで経験値を獲得できる方法を思いついてしまったのだ。
一つだけデメリットがあるとすれば、僕が協力してしまっているので、少しだけ僕にも経験値が振り分けられてしまうことだろうか。
【名 前】 スラマル
【種 族】 スライム
【レベル】 2
【魔 力】 2/2
【筋 力】 2
【防御力】 2
【スキル】 なし
【名 前】 コロゾー
【種 族】 スライム
【レベル】 2
【魔 力】 2/2
【筋 力】 2
【防御力】 2
【スキル】 なし
すでに二体ともレベルは2に上がっていて、1だったステータスが全て2に増えている。
【名 前】 カイト・フェルト
【適 性】 スライム超特化テイマー
【レベル】 3
【魔 力】 1/3
【筋 力】 5(8)
【防御力】 5(8)
【召喚枠】 0
【スキル】 テイム、モンスター鑑定
僕のステータスはおかげで4もプラスされた。
目標はレベル3だったけど、このペースなら今日中に4までいけちゃうかも。
従魔に僕のレベルを越されたら、かっこ悪いかな?
とりあえず今日はスライムを狙って、明日はゴブリンと戦ってみるのもよさそうだ。筋力と防御力ともに13もあれば、ステータス上は問題ないだろう。
オークは人型のモンスター。大きさは全然違うけれど、同じ人型のゴブリンならいい予行練習になるかもしれない。
「この調子でどんどんいこう!」
走っては投げ、走っては投げ。
スライムを見つけては片っ端から倒していく。
筋力が上がったからか、スラマルとコロゾーの重さがそれほど気にならない。
ステータスが変わることでこんなに違うなんて。
時間が経つにつれ、だんだんと森は赤く染まり、夕焼けに照らされた景色が表情を変える。
いつも僕はこの光景をとても美しいと感じるし、大好きなんだけど、同時に寂しくなってしまう。もうすぐさよならの時間だよ……と、言われているみたいで。
合計200体以上は倒せたんじゃないかな。スラマルとコロゾーは、最終的にレベル4になる目標を達成した。
11体倒してレベル2、24体でレベル3、60体くらいやっつけたところでレベル4だ。経験値が僕にも少し入っていたから、僕も一緒にレベル4になれたみたい。
初日にしては、大満足の結果だろう。
「そろそろ帰ろうか。パパとママに、君たちを紹介しないとね。お利口さんにできるかな?」
大切な従魔を地面に降ろして話しかける。
伝わっているのか分からなくても、自分の考えや思いを共有することで、絆が深まっていくと本にも書いてあった。
茜色の空に黒紫が差し込んで、夜を知らせるグラデーションが作られていく。
"楽しい時間というのは、あっという間に終わってしまうのですね。もう少し戦いたかったというのが本音ですが"
スラマルは、へにゃりと溶けるように体を広げて、不満を漏らす。
まるで散歩から帰りたくないと駄々をこねる子犬みたいだ。
「ふふっ、強くなれたのが嬉しかったのか。でもね、夜の森は危険なんだ。続きはまた明日、分かってくれるよね?」
スラマルは僕に歯向かっているわけじゃない。
今日だけで信頼関係が密になり、心の繋がりが強くなったから素直な気持ちを伝えてくれているだけ。
この子は、ちょっとわがままを言ったくらいじゃ僕が怒らないと知っているんだ。
"はいっ、カイト様! もっともっと強くなって、大活躍してみせますから!"
スラマルったら飛び跳ねちゃって。明日をすごく楽しみにしているみたい。
"任せて下さい。このコロゾー、ご主人のご両親に完璧な挨拶をしてみせますぜ!"
コロゾーは、上役に敬礼する警備隊員みたいにビシッと体を伸ばす。
コロゾーから、僕に対する信頼の気持ちが伝わってくる。
「大丈夫だよコロゾー、僕の家族に気を遣う必要なんてないんだ。君たちだって、もう家族なんだから」
スラマルもコロゾーも素直な子たちだ。
僕の言う通りにしていれば間違いない。信じているから、ひたすらについていきますとアピールしてるようなもの。
「よーし、大急ぎだ!」
とっても可愛い二体の従魔を抱きかかえ、全速力で家へと向かう。
大地を蹴ると、いつも以上に体が宙に浮く。自分のものとは思えないくらいに軽い。
一歩がとても大きくて、ぐんぐん加速する。夜に溶け込んで、風になったみたいだ。
実際はそこまで速くないけれど、テイマーになる前の僕じゃ考えられないスピードで走れている。それに、全然疲れない。
あっという間に着いてしまった。
「ただいまー! 見て見て、テイムできたよ!」
家に入ると、もうご飯の匂いが漂っている。
早くパパとママに僕の友達を紹介したい。僕の相棒たちを。
「あら、すごいじゃない。カイトはテイマーの才能があるのね?」
「おいおい、褒めすぎだろ。まだスタートラインに立っただけだ。でもまあ……いい顔してるぜ?」
従魔たちから、緊張が伝わってくる。
森では元気一杯だったのに、今じゃ借りてきた猫みたいに大人しい。
床に降ろして、早速ご挨拶だ。
安心して、僕がついてるからね。
「こっちがスラマル。僕が初めてテイムしたスライムだよ!」
スラマルが体を伸ばしてくの字に曲げた。
一流レストランのボーイも顔負けの素晴らしいお辞儀だ。
「そして、こっちがコロゾー」
コロゾーもまた、同じように体を折った。……スラマルよりも少しだけ深く。
先輩よりもよく見られたいのかな?
パパもママも、ぽかんと口を開けて驚いている。そりゃそうさ、実は事前に練習してたんだから。
天才なのは、僕じゃなくてスラマルたちのほうかもね。
ドッキリ大成功だ。
「……なんだこりゃ? おかしいぞ、いったいどんな手品を使いやがった。テイムしたばかりのモンスターに、そんな動きができるはずねえよ」
「スラちゃんにコロちゃん、よろしくね。ママもこんなに頭がいいスライムは初めて見たわ。さっ、ご飯にしましょうか」
夕飯を食べながら、今日あったことを報告した。
普段はあまり僕を褒めないパパが、スラマルとコロゾーに興味津々で、あれこれ聞いてきてくれるのが嬉しい。
多分、僕に自信を持たせようとしてくれてるんだろう。
従魔と一緒にお風呂に入り、
僕たちは、家族になったんだ。