不死の王復活
負傷者を連れている亜人たちに追いつくのは簡単だった。
「陛下、ご無事で」
淫魔将軍が安堵し、ねこみみメイドが勇者の姿を見て眉を顰める。
「なんで、あんたが付いてきてるのよ」
「お姉さま、これ、始末しましょう」
マントなしで自由にしている吸血姫が、威嚇するように犬歯を見せる。
「おいおい、俺たちの方が先に人間界にお邪魔したことを忘れるな、今度は、この勇者様をこちらがお出迎えというわけだ」
俺としてもあまり歓迎したくない来賓だが、こちらが勝手に乗り込んでおいて、相手にはするなというのも、おかしな話だとは思う。ので、ある程度歓待したらさっさとお帰り願おう。勇者が来たせいで、魔王交代という考えたくもないことが起きるかもしれない。勇者を歓待して、早く帰ってくれるように仕向けるのが最善策だと思う。
「いいか、勇者は、この魔王の来賓だ、そのように接するように」
「魔王様の仰せのままに」
「仕方ないですね」
「分かりましたが、我々は人間界であまり歓待されなかったように思いますが」
「我々が、人間の真似をする必要はなかろう」
「はい、魔王様。せいぜい、うっかり殺してしまわないように注意します」
なんとか、ねこみみメイドたちをなだめて魔界に向かった。最大の難関である、神竜の寝床は通過した。もう少しだ。もう少しで魔界に帰れる。
長く魔界を空けていたから、宰相に怒られるかもと思うと、つい一人苦笑してしまう。魔界より、人間界の方が、自然は美しかったが、やはり、魔界の光景が恋しい。
魔界が近づいているのが分かるのか、亜人たちの足取りもだんだん軽くなる。
洞窟の先に外の光が見え始めたとき、ねこみみメイドが叫んだ。
「魔王様、止まってください。腐臭がします」
「腐臭?」
俺が立ち止まると、その外の出口の光の方からワラワラとこちらに人影が向かってきた。
ムッとするような匂い。確かに腐臭だ。ということはこちらに向かってくるのは歩く死体だと判断して、直ちに火球を放った。
一気に吹っ飛ばして、俺は洞窟の外に飛び出した。
「うぇ、」
吐きそうなくらいの腐敗臭が漂い、洞窟の周りを不気味な歩く死体たちが囲んでいた。
「こいつは・・・」
「なに、これ、いつの間に魔界って死霊の世界になったの?」
俺の後に続いて外に飛び出してきた勇者が顔をしかめてる
「いや、違う、こいつは心当たりがある、生きてたんだな、不死の王! 見てるんだろ、出て来いよ」
死体が絡み合い椅子を形づくりその椅子に美麗な男が座り、その死体椅子を歩く死体の群れが頭上に掲げながら俺の方に運んでくる。不死の王の見かけは若い。
「よ、魔王様、あんたが人間界から帰ってくるのを今か今かと待ち望んでいたぜ」
「そうか、ここで待ち伏せてたのか、誰から聞いた。この俺が人間界に行っていると?」
「さて、誰からか、わざわざ教えると思うか」
「なに、こいつ」
死体の椅子に座っているだけで勇者が嫌悪するには十分な理由だった。
「ね、こいつやってもいい?」
「やってくれるのか?」
「なんかむかつくから」
「ほほぉ、見たところ人間のようだが、ただの人間が不死の私を殺せると?」
「死霊系には神聖な神の光がよく効くっていうけど、試していい」
勇者は聖剣とそれと対になる鎧に一瞬で換装した。
「お、おい、貴様、何者だ・・・」
「そういう質問は、最初にしなさいよ。勇者よ、勇者、私は人間の勇者なの。勇者の前に不浄なものわんさか見せつけないでよね」
ざっと光の刃が不死の王を縦に真っ二つに裂く。
「む、娘よ・・・、助けてくれ・・・」
俺たちに遅れて地上に出て来た吸血姫の姿を見て、不死の王が、助けを求めるが、先に勇者は横に光の刃を走らせ、縦、横の十文字に不死の王を切り刻んでいた。
光の刃に裂かれて。ボッと肉片が燃え上がった。出て来ていきなり勇者にやられてしまった。運が悪かったとしか言えない。
まさか魔王と勇者が行動を共にしているなど、誰が想像できよう。
「オヤジが生きてたの、知ってたのか」
「いえ、知りませんでした」
俺の問いに吸血姫は冷淡に答えた。父親が死んだというのに、負け犬に興味なしという感じで眉一つ動かしていない。
「じゃ、俺たちが人間界に行っているとばらしたのは別人ということか」
「おい、魔王、このクソ汚い汚物を浄化していいか」
勇者は主をなくし、ただウロウロしている歩く死体たちを見た。
「ああ、そうしてくれると助かる」
いくら魔界でも歩く死体がたくさんうろついているのは迷惑だった。
勇者は好きなだけ放てるようになった光の刃で死体どもをすべて浄化した。
勇者がいてくれたくれたおかげで臣民を歩く死体の群れの餌にするという最悪の展開は避けられた。
「ところで、勇者、どこに行きたい?」
「魔王城へ案内して。あんたは王宮を見た、私は魔王城を見るというわけ」
「よし、良かろう、魔王城の迫力に腰を抜かすなよ」
魔界の統治者の住む魔王城は。魔界でも一二を争う建造物だ、勇者が見たいというのなら見せてやろう。
「彼らのこと任せていいか」
俺は亜人たちを見ながらねこみみメイドに頼んだ。
「私がですか」
「彼らの住む場所の手配を、すべて魔王の名でな」
俺は淫魔将軍の方を見た。
「悪いが、彼女を手伝って、二人で彼らの住む場所を」
「分かりました」
淫魔将軍は即答した。
ねこみみメイドは亜人仲間に顔が効くだろうし、淫魔将軍は、交渉相手が男なら、最適なサポートができるだろう。俺と勇者、空を飛べる吸血姫が一足先に魔王城に向かうことになった。
「陛下、かかる費用はすべて魔王様持ちでよろしいですね」
「ああ、頼む」
そうして、俺は人間界から連れてきた臣民たちと別れた。