第8話 お昼寝スポットを聞いた
「てな訳で、お前が知っているのんびりほっこり癒されエリアに案内してもらおうか!」
「かぴっ?」
「ますたー?」
ペットになったカピバラこと、かぴーに俺はキリッとした顔で命令した。
一方でかぴーはソラとじゃれあいながら遊んでいたところで、二人同時に俺の方に振り向いて小首を傾げる。
「あのー、突然なに言ってるんだかぴ? 癒されエリア?」
勘の悪いカピバラに、俺はクソデカため息を吐き散らかす。
「おいおいまさか俺がかぴーを癒されマスコット枠だけで仲間にしたとでも思ってんのか? 俺はな、お前に情報を期待してるんだよ」
「情報かぴ?」
「ああ、そうだ! この魔界の癒されスポットの情報だ! ここはどこを見ても殺伐としててまったく心を落ち着かせられるような場所がない! マジで! 一つも!!」
オイオイと滝のような涙を流しながら悲痛な叫びを漏らした。
そんな俺の情けない姿に、かぴーは引くように一歩後ずさる。
「な、なんでそんなに癒されたいんかぴ? ち、ちょっと怖いかぴ……」
「ますたーはいっつもこんな感じだよー!」
「そうなのかぴっ!?」
ソラの補足にかぴーは目を丸くして驚いた。
まだソラとは会って数時間しか経っていないが、もうだいぶ俺のことを理解されてしまったようだ。
かぴーは小さな手で自分のアゴの辺りを思案げに撫でた。
「そうかぴねぇ~……まあ、癒されスポットかどうかは分からないかぴけど、ぼくがよくお昼寝をしに行く場所なら案内できるかぴ」
「マジか!?」
お昼寝をする場所なんて絶対にのどかで落ち着いた場所に決まってるもんな!
見たところこの魔界はどこもかしこも地獄のような風景ばかりで一時たりとも心休まる場所なんてないからな!!
お昼寝スポットでも見つけられれば俺のスローライフ生活にようやく彩りが出るってもんだ!!
「よしっ、それじゃあ早速案内してくれ! かぴーがオススメするお昼寝スポットに!!」
「了解かぴ! 良かったらぼくの背中に乗っていくかぴ?」
「むっ、いいのか?」
「もちろんかぴ! ミルヴァナート様とソラちゃんなら大歓迎かぴ!」
「わーい! やったー!」
「悪いな。んじゃお言葉に甘えて背中に乗らせてもらおう。あと、俺の名前はミナトって呼んでくれ。仰々しい名で呼ばれるのは好きじゃないんでな」
「分かったかぴ! ではではミナト様とソラちゃん、張り切ってトばすからしっかり掴まっててかぴー!」
ソラを抱き上げてかぴーの背中に乗る。
もふっと少しごわついた茶色い毛に埋もれる感覚。
ソラを前に座らせ、その背後から俺が手を回してかぴーのもふもふの毛をガシッと掴んだ。
こうすればソラが振り落とされることもないだろう。
「それじゃ、出発進行かぴー!!」
「うおっ!?」
「あははははー!! すごーーい!! かぴーちゃん速い速ーーーい!!!」
かぴーがやる気の顔になると、突如、ビュオッ! と風を切るような音が鳴った。
と同時、がくんと空気抵抗で体の前面が後ろに押されるが、しっかりとかぴーのもふもふ毛を掴んでしがみつく。
ソラはキャーキャーと叫びながら楽しそうにはしゃいでいた。
こうして、かぴー号による魔界の近辺をドライブする体験を楽しむことになった。