第4話 ステータスを調べてみた
ダンジョン最奥に位置するラスボス部屋、いわゆる玉座の間からソラと一緒に一歩外へ足を踏み出した。
ここはダンジョンなので、地上までは少し歩かなければならない。
ただ、ソラが言っていた『だいめいきゅー』というワードが少し気になっていたんだが……。
「――――って、どんだけ広いんじゃこのダンジョンはぁあああああああああああああああああ!!?」
俺の絶叫がダンジョン中に空しく反響する。
その叫びに、先導するようにスキップしていたソラが、不思議そうに振り返る。
「ますたー、どうしたの?」
「どうしたのじゃねぇよ! さっきからどんだけ歩いてんだ!? もうかれこれ二十分くらいは歩いたろ!?」
「んー、たぶんもうちょっとでお外にでれるよ!」
それだけ言うと、ソラは再びスキップをしながら先に進んでいく。
嫌な予感ほど的中するとはよく言ったものだ。
禍々しい岩窟がひしめく広大な通路を歩きながら、心の中で呟く。
俺が目覚めた玉座の間からここまで、ずーーーっとソラと洞窟の中を歩いている。
道に迷うこともなく、ひたすら道なりに沿って移動してきた。
つまり地上から玉座の間まで一本道である。
「俺って一応ラスボス的存在なんだよな? そんな奴が根城にしてるダンジョンの最奥部が地上から直通ってどうなん? これ万が一誰かに攻め込まれたりしたら時間稼ぎすらできねぇじゃん。ただバカみたいに広さと長さがあるだけだぞ」
ここでようやく、ソラの発言を理解した。
『だいめいきゅー』とは、『大迷宮』のこと。
つまりここは単純なダンジョンではなく、大迷宮と呼ばれるほど広大なダンジョンだったのだ。
しかし、道は全く複雑ではないので、迷宮性があるのかと問われればノンと答えるしかない。
だってこの造りだと俺のいる最奥の部屋まで一直線だもん。
「あくまでも俺の目的はスローライフだが、大迷宮のラスボスに転生してしまった以上、この先なんらかの望まない戦いに巻き込まれることもあるかもしれない。なら、スローライフ計画と同時に俺自身の戦闘能力も高めておく必要があるな……。あとこのダンジョン構造もどうにかせねば。やることは多そうだが、まずは今の力を把握しておきたい……試してみるか」
【MWO】のゲームをしている時、あまり俺はこの画面を見なかった。
冒険をする気などサラサラなかったからだ。
だが、今は事情が異なる。
俺は、ふーっと息を吐いてから、あのセリフを告げる。
「ステータスオープン!」
発言と同時、俺の目の前にステータス画面が表示された。
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名前:ミルヴァナート=ゴッゾ=ドゥ=デモンレゾール
種族:大悪魔王《デーモンロード》
レベル:707
HP/920858 MP/109111
攻撃力/52255 防御力/52255
敏捷性/60011 賢さ/89998
器用さ/90914 幸運/108
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「いや、なんじゃこの長ったらしいカタカナまみれの名前は!? これが今の俺の本名なのか!? つーか、『幸運』低っっ!!?」
予想外の情報に驚きの叫びをあげる。
俺の本名こんなアホみたいに長かったのか。
人前でフルネームは話せないな。
てか覚えられん。
それよりも『幸運』の値はどうなってんだ。
明らかに他のステータスと比べて桁が違いすぎるだろ。
日本で限界社畜やってた時も全く運はなかっただろうが、【MWO】の世界でも運に恵まれないポジションに転生しちまったのか……?
「……いや、逆だ。【MWO】の世界に転生してこれたおかげで、あの終わりの見えない労働地獄から解放されたんだ。ちょっとくらい運がなくたって、こっちの世界ならできることは色々あるはず。俺は変わらず『スローライフ計画』を主軸に行動するのみだ!!」
俺が再度意思を滾らせていると、またしてもソラが振り返って小首をかしげる。
「ますたー、だいじょうぶ?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
答えながら、ふとソラのステータスはどんな内容か気になった。
たしか【MWO】では自分の仲間のステータスは共有情報としてお互いに確認できたはずだ。
試しにソラに向けて、ステータスオープン、と告げてみる。
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名前:ソラ
種族:魔導供給核《ダンジョンコア》
機能:ダンジョン拡張、魔物生成
ポイント:0
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俺のステータスに比べたらだいぶシンプルな文面だった。
ただ、『機能』っていうのは俺にはなかったな。
ダンジョンコアであるソラ特有の能力か。
内容的に、このダンジョン内で行使できる特殊能力ってところかな。
ただ、『ポイント』ってのは何だろうか?
ソラのステータスをざっと確認していると、当の本人が、だだだっと駆け出した。
「みてみて、ますたー! お外につくよー!」
ソラの前方には、白く光る出口がある。
おお、ようやく気味が悪い禍々しさを放つ岩窟から解放されるのか。
そう考えると俺も高揚してきて、ソラの後を追いかけるように走り出した。
そして、ついにダンジョンから地上に抜けて、異世界の美しい光景が見え――――
「……な、なな、なんじゃこりゃぁああああああああああああああああああ!!!」
――――ることはなく。
俺の目の前には、血の池地獄のような阿鼻叫喚の赤黒い景色がどこまでも広がっていた。