クロエの気持ち2
『クロエは僕の契約者になって、色々な国を旅して、たくさんの冒険をしたんだよ?クロエは肉体の限界がきて、長く住んだザイン王国で余生を送る事にしたんだ。だけど、寂れた村の教会の前で赤ちゃんだったレティシアを見つけたんだ。クロエはレティシアを自分で育てると言ったんだ。それからのクロエは、』
チップは嬉しそうに目を細めた。まるでクロエとの楽しかった記憶の中にいるようだった。
『クロエと僕と、赤ちゃんのレティシアで旅をしながら暮らしたんだよ。ちっちゃなレティシアは僕にとっても懐いて、いつもぼくを抱っこしたがったなぁ』
思い出した。フワフワの温かいリス。レティシアが泣いていると、フワフワの身体をすりつけて涙をふいてくれた。チップはいつもレティシアの側にいてくれたのだ。そこで疑問が湧いた。何故チップはレティシアの元を去ってしまったのか。レティシアは母を失った五年間、ギオレン男爵家でとても苦しい思いをしていた。
チップが側にいてくれれば、どれほど心強かった事か。レティシアの気持ちが顔に出ていたのだろう、チップは苦笑して答えた。
『クロエはね?僕にレティシアの契約者になってほしがってた。だけどね、霊獣と契約するには少なくとも十八歳まで成長しないといけない。クロエが死んだ時、レティシアは十三歳だった。十三歳の身体で僕と契約したら、レティシアはずっと十三歳の姿で生きなきゃいけなくなってしまう。だからクロエは十八歳になったら召喚契約をするように言ったんだ』
「・・・。そこまではわかったわ。だけどチップ、それでもどうして私と一緒にいてくれなかったの?お母さんが死んで私とっても悲しかったのに。チップが側にいてくれたらどんなに心強かったか、」
『・・・。レティシア。霊獣との契約で一番大切な事わかる?』
「ええ。お母さんの本に書いてあったわ。霊獣は清い人間の心を好むって」
『そうだよ。レティシアはそうはならないと思ったけど、もし僕がクロエが死んでもレティシアの側にずっといたら、イジワルなメイドやメイド長に復讐してくれって僕に頼んでしまうかもしれない。そうなるとレティシアの心が少しずつ悪い方に傾いてしまえば、いざレティシアが十八歳になった時、僕はレティシアと契約できなくなってしまうかもしれない。そう考えたクレアは、レティシアが五歳になった時、僕はレティシアの前から姿を消したんだ』
それも思い出した。フワフワなリスさんがどこかに行ってしまって、レティシアはずっと泣いていた。リスさんに会いたいと。
クロエは、リスさんは森に帰ったのだ。森で幸せに暮らしているよと、いつもなだめてくれた。
『姿は見えなくても、僕はずっとレティシアの側にいたんだよ?姿隠しの魔法を使って、ずっとね』
「・・・。チップはずっと私の側にいてくれたの?」
『ああ。レティシアがいじめられている時も、物置部屋で泣いている時も、ずっと側にいたよ。何度も姿を表して、レティシアを助けたいと思った。だけと、それはクロエとの約束を破る事になる。僕はずっと我慢していたんだ』