10
リビングへ行き、買ってきた物を冷蔵庫に入れながらふと思った。
なんか、やってる事、彼女っぽい?──いやいや、わたしは瀬野さんに頼まれて来ただけだ。こんな時に不謹慎だぞ。
戸棚からトレイを取り出し、食べられそうな物を適当に見繕って乗せる。キッチンの引き出しからスプーンを取り出し、思った。どこに何があるか把握しているのって、彼女っぽい?──いやいや、前に早坂さんと一緒に洗い物をしたから知っているだけだ。浮ついた頭を振り払う。
その時、ふと目についた物。シンクの中に1つだけグラスがあった。底にはうっすらと琥珀色の液体が残っている。手に取り匂いを嗅ぐと、ウイスキーだ。
洗い残しだろうか。でも、これだけ?
折り返しの階段を上がり2階へ行くと、廊下を挟んで3つの部屋があった。早坂さんに言われた通りすぐ右手の部屋へ向かう。ドアは開けっ放しだ。
「コンコン」手が塞がっていたため口でノックを伝える。「お邪魔します」
部屋に入った最初の感想は──殺風景。広さはそこまででもないが、設置されているのは、窓際の大きなベッドとサイドテーブルだけだ。それと壁一面のクローゼット。
「いらっしゃい」
早坂さんはベッドに横になっていて、わたしを見ると布団を捲った。そして片手を広げる。
「・・・なんですか」
「いらっしゃい」
「来ましたけど」
「ここによ。添い寝してくれるんでしょ?」
「そんなこと、一言も言ってませんが」
「あらそう、残念」
この人、本当に39℃もあるんだろうか。
「ダッハッハッ!雪音、一緒に寝でやれ!」
おばあちゃんはベッドの足元にチョコンと座り、足をブラブラしている。
「何言ってんのおばあちゃん・・・」
サイドテーブルには携帯と体温計と壺のような物が置いてあり、その隣にトレイを置く。
「なんですかコレ?」
「美麗ちゃんのよ」
「・・・あっ!」これはまさか──蓋を取って中を覗くと、やっぱり。青唐辛子だ。
苦い記憶が蘇り、食べてもいないのに口の中がヒリついてきた。
「遊里に食えって言っても食わねー!雪音は食うが?」
「いらないっ!そしておばあちゃん、病人にこんなの食べせたらダメだよ・・・病人じゃなくてもダメだよ・・・」
「寝てる時に口の中に突っ込まれたわ。噛まなかったからセーフだったけど」
「えええ!?」