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それから1時間後、アパートの前で待っていたわたしを迎えに来た瀬野さんは、助手席の窓を開けてこう言った。
「登山にでも行くのか?」
「なんか、いろいろ買いすぎちゃって!ちなみにコレ、ホントに登山用のリュックです」
「・・・後ろのほうがいいな。乗れ」
「お願いしまっす!」
自動で開いた後部席にリュック共々乗り込んだ。瀬野さんの車はワゴン車だから車高が低くてありがたい。
「それ、何が入ってんだ?」
車がアパートの敷地を抜けたところで瀬野さんが言った。ルームミラー越しにわたしの巨大なリュックを怪訝な顔で見ている。
「えと、水と栄養ドリンクと、あと果物とゼリーとプリンと、パンとかレトルト商品とか」
「・・・食料と水分は持ってったって言っただろ」
「や、わかってたんですが、アレもコレもと買い込んでるうちにこんな量になってました」
「殺傷能力ありそうだな」
どうやって殺すんだろう。体当たりか?
「見た目ほど重くないですよ。わたしが普通に動けるくらいなので」
「まあ、それが基準になるかはわからんが」
それは、褒め言葉として受け取っておこう。
「早坂さん、大丈夫でしょうか・・・」
「アイツは大丈夫だ。お前を呼んだのは念の為だ、あくまで」
その根拠はどこから来るんだろう。
「ていうか、わたしが行って迷惑じゃないんですかね・・・」考えたら、急に不安になってきた。「あれ?わたしが行く事、早坂さんは知ってるんですか?」
「・・・むしろ、元気になるんじゃないか?」
「知らないんですね?」
「まあ、気にするな」
──言われるがままに動いて、早坂さんに連絡をするという頭が一切なかった。更に不安が募る。
「追い返されたらどうしよう・・・」
「お前は野生の勘が働く割に、消極思考だな。追い返そうとしても、移したくないからだろ。そこはお前が粘れ」
「粘れって・・・」
「そうか、お前も移される可能性があるのか・・・自信あるか?」
「自信?とは?」
「移されない」
「・・・ちなみに、自信でどうにかなるものなのでしょうか」
「俺は移らないって言い切れるが、お前はわからんからな。一応気をつけろよ」
言い切れる根拠はさっき聞いたから、納得だ。お前はわからんと言うのも、風邪を移された事のない人にしか言えないセリフだ。大抵の人は、移されるという前提で動く。