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「大熱にやられてる」
「大熱・・・ええっ!?マジですか!?」
「・・・耳に響く。落ち着け、生きてるから大丈夫だ」
「風邪引いたのかな・・・大熱って、どれくらいですか?」
「確か、39℃とか言ってたな」
「39ドォッ!?だっ、大丈夫なんですか?」
「アイツも俺もガキん時以来、熱を出した事がないからわからんが、いつになくしんどそうだったな」
瀬野さんの言う、ガキの時が何歳の事を言っているのか知らないが、それから今に至るまで1度も熱を出した事がないなんて、あり得るのか?本当に人間じゃない説が濃厚になってきた。
「しんどいに決まってますよ・・・病院には行ったんですか?」
「アイツは行かん」
「行かんって、ダメでしょっ!」
「とにかく、アイツは死んでも行かん。殴って気絶させて連れて行かない限り無理だな」
心配を通り越して、腹が立ってきた。わたしには微々たる事で病院に行けとうるさいくせに。
「瀬野さんは行ってきたんですか?」
「食料と水分は持って行ったんだが、俺が居たところで何も出来んしな。仏頂面見てると悪化するって追い返された」
笑う状況ではないが、笑いそうになった。
「でも、わたしが行ったところで何が出来るか・・・」
「近くにいるだけでいい。何かあった時のために、という意味でな。ばーさんは居るが、アテにならんしな。無理強いはしないが」
「行きます」
「・・・わかった」
「住所送ってもらえますか?」
「住所?」
「早坂さんのお家の」
「なんでだ」
「え、タクシーで行くのに」
「俺が連れてく。タクシーで行かせたら後で何を言われるかわからん」
「いや、でも・・・」
「俺の頼みなんだ、くだらん事で気を揉むな」
「・・・じゃあ、お願いします」
「1時間後に出れるか?」
「あー、はい。大丈夫です」
「家の前で」
わたしの返事を待たず瀬野さんが通話を終わらせた。
「大変そうね。優子も熱がある時はとても辛そうにしていたわ」
さすが地獄耳。説明の手間が省けた。
「39℃って、かなりキツイですよ・・・」
考えてみれば、早坂さんからの連絡が"2日も"途切れている。基本、毎日か1日置きで用の無い電話やメールが来るんだが。相当、具合が悪いんだろうか──。
こうしちゃいられない。5分でシャワーを浴びてスーパーまでダッシュだ。