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「テレビもついてたから消しておいたわ」

「ありゃ、ありがとうございます」

「ワインもこれだけ飲めばソファーで寝るのも当然ね」

テーブルにあるワインのボトルには、1センチほど中身が残っている。

「一応、全部は飲んでないですよ」

「飲み干す前に酔っ払って寝ただけでしょ?」

ぐうの音も出ない。

「あの空舞さん、ヘソを突くのはやめてもらいたいんですが!」

「あなたが起きないからじゃない」

「それにまだ9時ですよ?昼まで寝てて起こされるのはしょうがないけど」本当にしょうがないのか?

「9時はまだとは言わないと思うけど。携帯が鳴っていたのよ、2回」

「えっ」

テーブルの缶を掻き分け、1本倒したのは無視して携帯を手に取る。
瀬野さんからだった。空舞さんの言う通り、2回着信がある。20分ほど前だ。

わたしは急に胸騒ぎがしてきた。瀬野さんからかかってくるのは初めてだ。それも2回も。なんで?瀬野さんがかけてくる急を要する内容。考えられのは──早坂さんに、何かあった。

わたしはすぐ瀬野さんへ折り返した。
3回コールが鳴る。お願い早く出て、瀬野さん。4回、5回、6回目の途中で呼び出し音が途切れた。

「もしもし!?瀬野さんですか!?」

「・・・威勢がいいな」

瀬野さんの落ち着いた声を聞いて、少し安心した。

「どうしたんですか!?何かありました!?」

「・・・お前が何かあったんじゃないのか」

「えっ、いや、だって瀬野さんから2回もかかってくるなんて何かあったとしか・・・」

「まあ、そうだろな」

──ああ、何か既視感があると思ったら、この前と同じ状況だからか。わたしから瀬野さんに電話をした時も、瀬野さんは同じ反応をしていた。

「大丈夫だ、何もない」

その言葉を聞いて心から安堵した。

「いや、あるっちゃあるんだが」

「えっ!?なんですか!」

「お前、確か月曜日は休みだったよな」

「はい。今日は休みです」

「暇か?」

「暇です」早くその先を聞きたくて即答した。事実でもあるが。

「頼みがある」

こんなふうに、瀬野さんから改まって言われるのは、緊張以外の何者でもない。

「なんですか?」

「遊里んとこに行ってほしいんだが」

何もないと聞いてはいても、心臓が動く。

「早坂さんの家に?なんでですか?」

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