3
「お前はサツだろ?」テロリストの男がマシューの耳元で囁いた。「それに、もう1人仲間がいるな?」
テロリストはマシューの腹に突き刺したナイフをゆっくり抜くと、わたしを見た。
──えっ・・・わたし?
血で染まったナイフを片手に、こちらへ向かってくる。
周りを見るが、ここにいるのはマシューとわたしだけだ。
ああ・・・次はわたしか。こんなことで死ぬんだったら、早坂さんに好きだと伝えればよかった。
目の前まで来たテロリストは、わたしのお腹にナイフの先端を突き当てた。
「白状すれば、命までは取らない。お前はサツだろう?」
「・・・なんのこと?わたしは飲食店に勤める、普通の女だ」
「そうか。残念だ」テロリストは不敵な笑みを浮かべた。
──ここまでか。わたしは死を覚悟して目を閉じた。
そして、ナイフがわたしの腹にめり込んで──うぐっ・・・・・うっ・・・ううっ・・・ぅう?
あれ。痛く、ない?
チクチクはするが、刺されるのってこんなものなのか?思わず自分の腹を見ると、ナイフは刺さっていなかった。かわりに違う何かが、わたしのお腹を攻撃している。
なんだ?黒くて、鋭い──あれは──・・・
「空舞さん?」
「やっと起きたわね」
「・・・・・・ん?」
状況の把握に努める。見えるのは家の天井。ここはソファーか。空舞さんは何処に?
「寝ぼけてるの?」
仰向けのまま、顔だけ上げた。空舞さんだ。
わたしの服は胸まで捲れ上がっていて、お腹の上には空舞さん。
「あれ・・・戻ってきたんですか?」
「何を言っているの?あれから10時間経っているわよ」
「・・・えっ!」
本当だ、カーテンの隙間から陽光が差し込んでいる。部屋の時計は9時ちょうど。
「あなた、言ったそばから同じ事を繰り返すのね。どうしたら寝ていてこんなにお腹が出るの?」
「・・・あれ、さっきまでドラマ観てたような・・・ぎゃっ!」
ヘソに痛みが走り、身体が勝手に飛び起きた。
「いつまで寝ぼけているの?」
「・・・もしかして、ずっとお腹突いてました?」
「あなたがいつまで経っても起きないからよ」
テロリストの夢は、空舞さんのせいにした。
「いつの間にか寝てました。キリの良いところで止めようと思ったんだけどな・・・」