後始末
ゲイド国王が降伏を宣言してからとても速やかだった。
マティアス王子は元ゲイド国王に、ゲイド国がザイン王国の属国になる事を了承した公式文書に署名をさせ、元国王と側近、騎士たちは城の牢屋に押し込んだ。
ゲイド国の暫定的指揮を任されたのは、レティシアの剣の師匠であるヴィヴィアンだった。レティシアはにこやかに微笑むヴィヴィアンに恐る恐る聞いた。
「ヴィヴィアン師匠。何故、ここに?」
「はい、レティシアお嬢さま。ザインとゲイドの国境から馬でやって来ました」
「いえ、そうではなく、何故ヴィヴィアン師匠がゲイド国の暫定指揮をとられる事になったのですか?」
レティシアの横にいたマティアス王子が口を開いた。
「ヴィヴィにゲイド国を任せるのは、ヴィヴィがゲイド国の内情に詳しいからだ。ヴィヴィは俺がイグニア国とゲイド国を調べるためにおくった密偵だ」
「えっ?!ヴィヴィアン師匠は剣術の先生ではなかったんですか?!」
驚きすぎているレティシアに、ヴィヴィアンは笑顔のまま答えた。
「剣術の先生は副業です。本業は国の情報を掴んでくる密偵なのです」
「・・・。それってとても危ない仕事なのではないですか?」
「はい、とっても危ないですよ」
レティシアはにこやかなヴィヴィアンから冷たい視線をマティアス王子に向けた。女性であるヴィヴィアンに危険な仕事をさせた事が納得いかなかったからだ。
「えっ?どうしたの?レティシア。何で俺の事にらんでるの?」
マティアスは焦ってレティシアの顔をうかがう。ヴィヴィアンは笑顔のままマティアスに言った。
「マティアスは本当に女心がわからないのね?レティシアお嬢さまは、マティアスが私に危険な仕事を強要したと思って軽蔑しているのよ?」
「えっ?!俺、軽蔑されてるの?!そんなぁ、」
マティアスは目に見えてしょんぼりした。ヴィヴィアンはクスクス笑いながらレティシアに言った。
「心配にはおよびませんわ、レティシアお嬢さま。私はこの仕事を自ら望んでやっているのです」
「どうして、ですか?」
「私以外の者がやれば必ず死んでしまうからです」
「・・・」
確かにヴィヴィアンは強い。それはわずかな間ヴィヴィアンに教授を受けたレティシアも熟知している。たが、危険な仕事をマティアスに命じられているという事実が、どうしても受け入れられないのだ。マティアスはレティシアをうかがいながら、オドオドと言った。
「ヴィヴィは強い。俺よりも強いからな」
「・・・。王子殿下よりもですか?」
「ああ。何たってヴィヴィは俺の剣の師匠だからな。ヴィヴィには俺もリカオンも歯が立たないのだ」
レティシアはポカンと口を開けたまま固まった。ヴィヴィアンの言っていた風の剣を使う弟子とは、マティアス王子の事だったのだ。