ゲイド国
「キャァ!チップ!速すぎるわ!もっと速度を落として!」
レティシアの顔にものすごい風圧の風が当たる。呼吸するのもままならないくらいだ。しかも、正面から受ける風圧のせいで、レティシアは後ろに大きく傾き、マティアスの厚い胸板に背中をくっつける形になってしまった。
レティシアは緊張しすぎて鼻血が出そうになってしまった。後ろのマティアスは、何が楽しいのかゲラゲラ笑い声をあげていた。
レティシアたちはチップのおかげであっという間にゲイド国の城に到着した。城にはもちろん警護する兵士がいたが、マティアスとチップに吹っ飛ばされた。
「貴様ら、誰の許しを得てわしの前までやってきたのだ!」
ゲイド国王は貧相でズル賢そうな老人だった。マティアスはどこ吹く風でいんぎんに答える。
「これはこれは、お初にお目にかかります。ザイン王国の第一王子マティアスと申します。短い間ですがお見知りおきを」
「き、貴様が第一王子!な、何故ここに。貴様は死んだはずでは、」
「ああ。予定は今日でしたね?来ましたよ?暗殺者。しかも私に近しい者でした。レティシア、目をつむっていろ」
マティアスはゲイド国王と話していたと思うと、レティシアに振り返ってにっこり笑った。レティシアは小さくため息をついて、両手で目を隠す。
マティアスはガサゴソと持ってきた荷物の包みをといた。
「ま、まさか!マクサ、なのか?!」
ゲイド国王の驚きの声が聞こえた。マティアス王子が持ってきた荷物。おそらくマクサ将軍の首だ。マティアスは世間話をするように穏やかに答える。
「はい、マクサ将軍は私を殺そうとする前にすべて話しましたよ?ゲイド国王と、私の叔父イエーリが結託して、私を戦争のどさくさに紛れて殺害する、と」
「まっ、まさか、ではイエーリどのも」
「ええ。わが弟ルイスの手により拘束済みです。他国と結託して、自国の王子の殺害を企てたのです。間違いなく死刑でしょう」
「・・・」
「さぁ、ゲイド国王。これからのお話です。このまま王位を退かれ、我がザイン王国の属国になるか?私の手で殺されて無に帰すか、二つに一つです」
カチャリ、と金属の音がする。きっとマティアス王子が剣を抜こうとしているのだろう。
「我が国は、降伏する、」
ゲイド国王の弱々しい声が聞こえた。