反撃3
ゲイド軍の兵士は長身で、剣の腕もレティシアよりはるかに上だった。レティシアは何とかゲイド軍の兵士と距離を取って、水の剣で攻撃したかったのだが、レティシアの技術では目の前の敵を押しやる事ができなかった。
少年兵に助力を頼もうにも、彼はすでに精神的にまいってしまっていた。頭を抱えてブルブルと震えている。
レティシアの頭によぎったのは死、だった。チップの言葉。大きな運命は変える事ができない。やはりレティシアはこの戦いで死ぬ運命なのだろうか。
レティシアは、斬られるにしても、できるだけ生存率の高い斬られ方をしようと、剣の方向をずらそうとするが、ゲイド軍の兵士はピクリとも動かなかった。
それどころかレティシアの行動を面白がっているようにも見えた。レティシアは仕方なく、斬られる覚悟でゲイド軍の兵士から距離を取った。
ゲイド軍の兵士は嬉々として剣を振りかぶった。けさがけに斬られる、と思った瞬間。ゲイド軍の兵士は横に大きく吹っ飛んで動かなくなった。
倒れたゲイド軍の兵士の後ろに、小柄な兵士が立っていた。鎧の紋章からして、ザイン王国軍の兵士だ。この兵士がレティシアを助けてくれたようだ。
「あ、ありがとうございます、」
レティシアが震える声で感謝をのべると、小柄な兵士は兜に手を当てた。すると兜が瞬時に消えて、燃えるような赤髪が現れた。
「油断大敵ですよ?レティシアお嬢さま」
「ヴィヴィアン師匠?!」
小柄な兵士はレティシアの剣の師匠ヴィヴィアンだった。レティシアは敬愛するヴィヴィアンが自分の命を救ってくれた事に感激しつつ、何故ヴィヴィアンがこの場にいるのかわからず、何から話せばいいのかわからなくなった。
「し、師匠。怖かったぁ、ウェーン」
「はいはい。一人で戦って偉かったですね、お嬢さま」
ヴィヴィアンは泣き続けるレティシアを優しく抱きしめてくれた。レティシアは感極まってワンワン泣き出した。
チップが慌ててレティシアの肩に飛びついてレティシアの頬の涙をなめた。
『レティシア。どうしたの?ケガした?』
「違うのぉ、チップ。ヴィヴィアン師匠がぁ、助けてくれたのぉ」
『あ、本当だ。ヴィヴィだ』
チップはそこでようやくヴィヴィアンに気づいたようだ。ヴィヴィアンは美しい笑顔で微笑んだ。
「あら、チップ。久しぶりね」
『やっほー、ヴィヴィ。どうしてここにいるの?』
「うふふ。私がここにいるのは内緒です。リカオンとマティアスには私がここにいた事を黙っていてくださいね?」
ヴィヴィアンは霊獣であるチップの言葉はわからないはずだが、感の鋭い人なので、チップの言っている事を何となく察するのだろう。
レティシアはもっとヴィヴィアンと一緒にいたかったが、ヴィヴィアンにも何か重要な用事があるようで、再会を約束してこの場を去って行った。