反撃
マティアスは何故か頬をそめながら、わざとらしく咳をした。
「しかし困った。この森に身を隠したのはゲイド軍の攻撃を受けにくくするためだが、こちらとしても手を出しにくくなってしまった」
確かにとレティシアも思う。マティアスはザイン王国軍の兵士を守るため、三人一組のグループを作り行動させようとしているが、林の陰に隠れているゲイド軍が三人よりも多ければザイン王国軍の兵士が危険だ。
レティシアは自身を乗せてくれているチップに言った。
「ねぇ、チップ。何とかならないかしら?」
『ゲイド軍の奴らがどこに潜んでいるかわかればいいんでしょ?できるよ!』
「本当?!」
レティシアは笑顔でマティアスに向き直った。
「王子殿下!チップがゲイド軍の潜伏場所がわかると言ってます」
「本当か!」
「はい。ゲイド軍の兵士の上に、水の玉を浮かべ、目印にするのです。ですがチップはゲイド軍とザイン王国軍を見分けているわけではありません。人間の身体の中の水分を認識して見分けているのです。ですので、チップがゲイド軍の兵士に目印をつける時には、必ずザイン王国軍の兵士たちは一箇所に固まっていてもらわないといけません」
「うむ、それなら造作もない事だ」
レティシアたちはゲイド軍に対して反撃に転じる事にした。
マティアス王子率いるザイン王国軍二百人は整列し、三人の組に分けられた。その間、レティシアを乗せたチップはゲイド軍の目印付けを行った。
森の中に潜んでいるゲイド軍の兵士は、およそ百五十。ここはザイン王国の領土なのにも関わらずこれほどの兵士が密かに入国していたとは。ゲイド軍の兵士は、一人残らず拘束しなければならない。レティシアは決意を新たにした。
ザイン王国軍の兵士たちは、続々と森の中に入って行った。レティシアは三人一組のグループには属さず、チップと二人で行動する事にした。
マティアスとリカオンが心配そうにレティシアとチップを送り出す。
「少しでも不調を感じたら、すぐにここに戻ってくるのだぞ?」
「無理すんなよ、レティシア!」
「はい、行ってまいります!」
レティシアは、マティアスとリカオンの声かけに元気よく返事をして、チップと共に森の中に入った。
森の中は怒号であふれていた。そこかしこで戦闘が繰り広げられている。レティシアは腰の剣を抜いて構えた。
これからゲイド軍の兵士と戦闘になる。もしかしたらレティシアが殺されるかもしれないし、反対にレティシアが相手を殺すかもしれない。
殺されたくはないが、いまだに相手を殺すふんぎりはつかなかった。