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その日、帰宅したわたしは早坂さんにメールを送った。
【起きてますか?】の一行。10秒後、電話が鳴った。やっぱりこの人、ずっと携帯に張り付いてるとしか思えない。

「もしもし?」

早坂さんの声を聞いて、全身の力が抜けた。

「もしもし、ごめんなさい遅くに。起きてました?」

「ええ、ちょうど寝酒に入ったところよ。どうしたの?何かあった?」

気持ち、シュンとする。

「何かなきゃ、電話しちゃダメですか・・・」

前に早坂さんに言われた事を、今度は自分が言っている。早坂さんからすぐ応答はなかった。

「あんまり可愛いこと言わないでちょうだい。近くにいなくてよかったわ。そしてダメなわけないでしょ」

「・・・よかった」

「あなた、ちょっと酔ってる?」

「えっ!わかりますか?」

「うん。でも、ほんのちょっとみたいね」

帰宅するまで冷たい風で酔いを覚まし、頭はスッキリしている。なんなら酔っているという自覚は全くないのだが。

「凄い、よくわかりますね」

「何言ってるの、あたしだからわかるのよ?凄いでしょ」

「あ、はい。今、春香と飲んできたんです」

「ああ、そうなのね。もちろんタクシーで帰ってきたんでしょ?」

「・・・それで、話してきました」

「あなた、歩いて帰ったのね!そーでしょ!?」

「わたしの話を聞いてください」

「・・・お仕置きは次ね。うん、それで、伝えたの?」

「はい」

「どうだった?」

「・・・信じてくれました」

「そう」口調で早坂さんが微笑んでいるのがわかり、また泣きそうになった。「よかったわね」

早坂さんはその一言だけだったけど、他に言葉は要らなかった。その言葉以外、要らなかった。

「早坂さん」

「ん?」

「いつも、聞いてくれて・・・わたしのこと考えてくれて、ありがとうございます」

「・・・どうしたの?あらたまって」早坂さんは笑っている。

「早坂さんにはホントに、支えられてるなって」

「・・・そんなことないわよ。むしろ支えられてるのはあたしのほう」

「え?」

「あたしはだいぶ、あなたという存在に救われてるわ」

「・・・ちょっと、かなり、わかんないんですけど」

早坂さんはハハッと笑った。

「わからなくていいわ」

わたしはよくないんだけど──早坂さんの声を聞いて安心したら、鬼のような睡魔が襲ってきた。

「聞いてくれてありがとうございます。安心したので・・・寝ますね」

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