12
その日、帰宅したわたしは早坂さんにメールを送った。
【起きてますか?】の一行。10秒後、電話が鳴った。やっぱりこの人、ずっと携帯に張り付いてるとしか思えない。
「もしもし?」
早坂さんの声を聞いて、全身の力が抜けた。
「もしもし、ごめんなさい遅くに。起きてました?」
「ええ、ちょうど寝酒に入ったところよ。どうしたの?何かあった?」
気持ち、シュンとする。
「何かなきゃ、電話しちゃダメですか・・・」
前に早坂さんに言われた事を、今度は自分が言っている。早坂さんからすぐ応答はなかった。
「あんまり可愛いこと言わないでちょうだい。近くにいなくてよかったわ。そしてダメなわけないでしょ」
「・・・よかった」
「あなた、ちょっと酔ってる?」
「えっ!わかりますか?」
「うん。でも、ほんのちょっとみたいね」
帰宅するまで冷たい風で酔いを覚まし、頭はスッキリしている。なんなら酔っているという自覚は全くないのだが。
「凄い、よくわかりますね」
「何言ってるの、あたしだからわかるのよ?凄いでしょ」
「あ、はい。今、春香と飲んできたんです」
「ああ、そうなのね。もちろんタクシーで帰ってきたんでしょ?」
「・・・それで、話してきました」
「あなた、歩いて帰ったのね!そーでしょ!?」
「わたしの話を聞いてください」
「・・・お仕置きは次ね。うん、それで、伝えたの?」
「はい」
「どうだった?」
「・・・信じてくれました」
「そう」口調で早坂さんが微笑んでいるのがわかり、また泣きそうになった。「よかったわね」
早坂さんはその一言だけだったけど、他に言葉は要らなかった。その言葉以外、要らなかった。
「早坂さん」
「ん?」
「いつも、聞いてくれて・・・わたしのこと考えてくれて、ありがとうございます」
「・・・どうしたの?あらたまって」早坂さんは笑っている。
「早坂さんにはホントに、支えられてるなって」
「・・・そんなことないわよ。むしろ支えられてるのはあたしのほう」
「え?」
「あたしはだいぶ、あなたという存在に救われてるわ」
「・・・ちょっと、かなり、わかんないんですけど」
早坂さんはハハッと笑った。
「わからなくていいわ」
わたしはよくないんだけど──早坂さんの声を聞いて安心したら、鬼のような睡魔が襲ってきた。
「聞いてくれてありがとうございます。安心したので・・・寝ますね」