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「・・・今日は聞いてくれてありがとう」
春香の少し後ろを歩き、その華奢な背中に言った。
「なにあらたまってんの」春香が前を向いたまま言った。
「信じてくれるとは思ったけど、正直こわかったから」
「・・・礼を言うのはあたしのほうよ」
「え?」
「子供の頃に母親に言って以来、誰にも言わなかったんでしょ。それだけ、その事がトラウマになってるってことじゃない。誰だって怖いわよ。死ぬほど勇気が要ったと思う」
「・・・なんか、優しい?」
「あたしはいつも優しいのよ」
「あそ」
「さっき店で、話が脱線してるって言ったけど・・・結局つながってるのね」
「なにが?」
「アンタの自己評価の低さよ。そーゆう生い立ちが、そうさせてるのよね」
「んん・・・わかんない」
「まあ、人間の性格は簡単に変わらないからね」春香がしみじみと言った。「アンタの代わりに言ってやるわよ」
「・・・え?」
「この先、アンタが自分の言いたい事を言えない時はアタシが代わりに言ってやるわよ。腹が立ったら怒るし、悲しいなら代わりに泣いてやるわ。だから、アタシにだけは本音を言いなさいよ」
──・・・ああ、ダメだ。
涙を堪えようと思う前に、目から溢れ返っている。なんでこの女は、こんなにもわたしを喜ばすことが上手いんだ。人生で嬉し泣きをしたのは、今日が初めてかもしれない。それも2回も。
春香は歩きながら半分振り返り、呆れた顔をした。
「また泣いてんの?泣き虫女」
「・・・代わりに泣いてくれ」
「アホみたいに泣いてるから必要ない」
「・・・抱きついていい?」
言った途端、春香は走り出した。わたしもすぐ後を追う。
「来るなっ!」
「残念だが足はわたしのほうが速い」
その後、コンビニを出た春香は袋から取り出した物をわたしに見せた。
「どっちがいい?好きなほう取っていいわよ」
両手に持っているのはアイスだ。
「あ、ありがと。わたしはどっちでも・・・」言いかけて、"間違い"に気づいた。「いや、こっちで」
春香の右手にある、チョコレート味のカップアイスを選んだ。
春香はフッと笑った。そして、そのアイスを──自分の袋にしまった。
「ぅおいッ!なんで!?」
「あたしこっちがいいわ」
「今の流れ的にそーなる!?自分の意見を言えってアナタが言ったんだけど!?」
「言ったけど、それが通るとは限らないじゃない?ほら、これも美味しいわよ」
そして、もう1つの棒アイスを手に持たされた。
──こーゆう奴だよ、この女は。