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「今のは・・・アレです、アレ!その・・・あっ!人面魚!」

「えっ!?」

早坂さんが川に目を向けたと同時に、わたしはその場からダッシュで駆け出した。

「あっ・・・コラッ、待ちなさい!」

「イヤだー!帰ります!」

「イヤだって・・・なんで逃げるのよ!」

早坂さんが追いかけてくるのがわかった。

「圧が・・・っ」

「あつ?」

声の近さにギョッとした。こんなにすぐ、追いつかれるとは。

「圧が、怖いから!」

叫んだと同時に足が地面から離れ、わたしは諦めた。

「わかった、わかったから、逃げないでちょうだい」

耳に、早坂さんの荒い息を感じる。

「・・・おろしてください。人が見てます」

「逃げないって約束するなら」

後ろから抱きかかえられ、わたしに自由はない。背中に早坂さんの体温を感じる。

「逃げません。ほら、今のおじさんもこっち見て笑って・・・」

早坂さんは、わたしを降ろした。でも、腰に回された腕は離さない。そのまま腕を掴み、自分に向かせた。

「別に、誰が見てようと構わないわ」

早坂さんは微笑んでいて、いつもの優しい笑顔がわたしを落ち着かせた。

「あなたは、そんなに人目が気になるの?」 どこか、面白がってる口調だ。

「いや、そーゆうわけでは・・・」

早坂さんの腕が背中に回り、わたしは一瞬にしてその腕の中に包まれた。

「・・・やっぱり、気になります」

頭の上で、クッと笑うのが聞こえた。

「ゴメンね。ちょっと我を失ってたわ。あなたが・・・」そこまで言いかけて、早坂さんは続きをためらった。その代わりに、もっと強く、わたしを抱きしめる。

わたしの手は、勝手に早坂さんの背中に回っていった。今日は、自分の意思とは関係なく身体が動く日だ。

少しして、早坂さんは身体を離した。その手はシッカリとわたしの腕に添えたまま。
何か、言いたそうな表情だ。

「雪音ちゃん」

「はい?」

「あなた、他の人にしてないわよね」

「・・・なにを?」

「いや、さっきの事とか、今のとか」

──つまりは、首にキスとか、背中に腕を回したり、ということか。この人がどういう意味で聞いてるのかは知らないが、わたしはムカっとした。

「・・・してるって言ったら?逆に、早坂さんは?誰にでもしてるとか、ありえます?」

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