18
「今のは・・・アレです、アレ!その・・・あっ!人面魚!」
「えっ!?」
早坂さんが川に目を向けたと同時に、わたしはその場からダッシュで駆け出した。
「あっ・・・コラッ、待ちなさい!」
「イヤだー!帰ります!」
「イヤだって・・・なんで逃げるのよ!」
早坂さんが追いかけてくるのがわかった。
「圧が・・・っ」
「あつ?」
声の近さにギョッとした。こんなにすぐ、追いつかれるとは。
「圧が、怖いから!」
叫んだと同時に足が地面から離れ、わたしは諦めた。
「わかった、わかったから、逃げないでちょうだい」
耳に、早坂さんの荒い息を感じる。
「・・・おろしてください。人が見てます」
「逃げないって約束するなら」
後ろから抱きかかえられ、わたしに自由はない。背中に早坂さんの体温を感じる。
「逃げません。ほら、今のおじさんもこっち見て笑って・・・」
早坂さんは、わたしを降ろした。でも、腰に回された腕は離さない。そのまま腕を掴み、自分に向かせた。
「別に、誰が見てようと構わないわ」
早坂さんは微笑んでいて、いつもの優しい笑顔がわたしを落ち着かせた。
「あなたは、そんなに人目が気になるの?」 どこか、面白がってる口調だ。
「いや、そーゆうわけでは・・・」
早坂さんの腕が背中に回り、わたしは一瞬にしてその腕の中に包まれた。
「・・・やっぱり、気になります」
頭の上で、クッと笑うのが聞こえた。
「ゴメンね。ちょっと我を失ってたわ。あなたが・・・」そこまで言いかけて、早坂さんは続きをためらった。その代わりに、もっと強く、わたしを抱きしめる。
わたしの手は、勝手に早坂さんの背中に回っていった。今日は、自分の意思とは関係なく身体が動く日だ。
少しして、早坂さんは身体を離した。その手はシッカリとわたしの腕に添えたまま。
何か、言いたそうな表情だ。
「雪音ちゃん」
「はい?」
「あなた、他の人にしてないわよね」
「・・・なにを?」
「いや、さっきの事とか、今のとか」
──つまりは、首にキスとか、背中に腕を回したり、ということか。この人がどういう意味で聞いてるのかは知らないが、わたしはムカっとした。
「・・・してるって言ったら?逆に、早坂さんは?誰にでもしてるとか、ありえます?」