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早坂さんの顔に、焦りが見えた。
「怒ってる?ゴメン、変な意味はないの」
「変なってどんなでしょう。ちなみに、わたしはたらしじゃないので、誰彼構わずそんな事はしません」 言い終わる前に背を向け、歩き出した。
「また始まったわね!違うって言ってるでしょ!ちょっ、待って雪音ちゃん」
わたしは無視して歩き続けた。早坂さんがすぐ、わたしの隣に並ぶ。
「ゴメン、怒らないで?今のはあたしが悪かったわ」
「別に怒ってません」
「いや、怒ってほしいんだけど」
「・・・意味がわからないんですが」
「そんなふうに冷めた目で見られるほうが堪えるのよ!」
「へえ・・・」
「可愛い可愛い雪音ちゃん、こっち向いて?」
「へえ・・・」
「あたし、あなたに嫌われたら生きていけないのよ!」
「へえ・・・」
早坂さんとの攻防は、わたしの家に着くまで続いた。
頭にはきたが、別に本気で怒っていたわけではない。流れを変える"キッカケ"に便乗しただけだ。
わたしと早坂さんの間に、確信的なものは何もない。早坂さんの思わせぶりな言葉も態度も、わたしにどうこう言う権利はない。わたしは、自分の気持ちを早坂さんに伝えていないのだから。
この曖昧な関係にストレスを感じていないと言ったら嘘になる。
でも、今はそれでいい。早坂さんの辛そうな顔を見るくらいだったら、今のままでいい。
それもまた、自分が傷つきたくないが故の解釈かもしれない。でも、いいんだ。
どんな関係でも、わたしはこの人のそばにいたい。