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早坂さんはギョッと驚き、少し身を引いた。
こんな顔の早坂さんは中々拝めるものではない。

「ん?なに?」

自分で何かをしようと思って動いたわけじゃない。わたしは勝手に早坂さんのシャツを掴み、つま先立ちになり、近くにあるその首元に自分の唇を押し付けていた。

早坂さんがピタリと静止したのがわかった。
"気が済んだ"わたしは、早坂さんの胸を支えに踵を地につけた。

早坂さんは固まっていた。まるで一時停止した映画のようにポカーンと口を開けている。こんな顔も初めて見る。それが可笑しくて、思わず笑ってしまった。

「えっ・・・なに?」

「早坂さんの真似です」

自分では考えられないほど大それた事をしたのに、何故か平静を保てる自分がいた。
早坂さんは突然、我に返ったようにわたしの手首を掴んだ。

「今の、なに?」

そして、わたしの平静は終わった。

「だから、早坂さんの真似です・・・」

「今、何したの?」

いや、そんなマジマジと言われても──・・・

「何したのって・・・ぅわっ!」

早坂さんが掴んだわたしの手首をグイッと引き寄せた。勢い余って早坂さんの胸にぶつかる。早坂さんはビクともせず、すぐにわたしの顎を掴んで上を向かせた。

「雪音ちゃん、今のはなに?」

──この人、"大丈夫"だろうか?
何をそんなに必死になって聞いてくるんだろう。わたしは早坂さんがした事を真似しただけなのに。
そんな態度に出られると、わたしは正気に戻って行き、わたしの心臓は正常ではいられなくなる。

「はっ、早坂さんが前にわたしにしたのと同じ事をしたんですっ!」

「なんで?」

「なんでって・・・ちょっ、早坂さんっ」 早坂さんはわたしの頬を両手で挟み、動けないようにした。
近い。このままでは首どころか口にキスしてしまいそうだ。

「なんで?」

早坂さんは、それしか言わない。わたしはそんなに重大な事をしてしまったのだろうか。わたし達の顔の距離は10センチもない。

「ごっ、ごめんなさい!謝ります!」

早坂さんは眉間にシワを寄せた。「なんで謝るの?あたしは、今のはどーゆう意味か聞いてるの」

──ダメだ、全然引かない。わたしは何て答えるのが正解なんだ。その前に動悸の激しさで爆発してしまいそうだ。

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