12
「あなた、いつも開けっぱなしなの?」
「・・・いやぁ・・・」
毎回朝早く空舞さんに起こされるので、鍵を開けぱなしにするという選択をしたのは最近である。
「たまたま?です、たまたま」
早坂さんは目を細めてわたしを見下ろした。
「あなたの家は2階なのよ?入ろうと思えば誰でも入れるってわかってる?」
いつもなら、この過保護モードにやれやれと思うところだが、今日はなんでか嬉しかった。早坂さんはいつもと変わらない。普通に話せている事が泣きそうなほど嬉しい。
「それより、コレ、わたしは大丈夫なんで早坂さん着てください」
「話を逸らしたわね?──いいから早く着なさい。まったく・・・なんでいつも薄着なのかしら」
こういう場合、早坂さんが譲らないのは知っている。だからわたしは大人しくその黒いマウンテンパーカーに袖を通した。
なんか、早坂さんの服ばかり着てないか?わたし。
「なんで、マスクしてんだ。まだ腫れてんのか?」
早坂さんの後ろから瀬野さんが顔を出した。
「ヤケドの腫れは引いたんですけど、別の腫れが・・・」
「別の腫れ?」瀬野さんは怪訝そうに眉を寄せた。
「アルコールの大量摂取よ」
グハッ──空舞さんめ!余計な事を・・・。
「昨日は嫌な事があって、ヤケ酒していたのよね?」
──このひと、絶対わざと言ってるよ。
早坂さんの前で何を言うかな。気まずくて顔を上げられない。
「コイツもらしいぞ」
「えっ」顔を上げられないは、撤回だ。
「二日酔いだろ、なあ」
「あんたね・・・」
早坂さんはバツが悪そうに顔を背けた。まさか、わたしと同じくヤケ酒を?
「二日酔いになるほど酒を喰らう理由は知らんがな」
ニヤニヤする瀬野さんを早坂さんが睨む。
「あんたはその顔を日常で見せなさいよ。さて空舞ちゃん、その人面魚を見たっていうのは何処かしら?」
この人も今、話逸らしたよな。
「そこよ。ほら、いるわ」
「えっ!」 早坂さんとハモり、空舞さんのクチバシの方を向く。
「跳ねているのが見えない?」
「あ・・・見えます。跳ねてるっていう高さじゃないけど」
わたしが目で捉えているソレは、水面から3メートルは高く飛び上がっている。
「あー、あたしもギリ見えるわ。なんかいるわね」
早坂さんは目を細めて注視している。
「俺にはサッパリ見えん」小野さんはそう言い、1人川へ向かって歩き出した。わたし達も後に続く。