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「あなた、いつも開けっぱなしなの?」

「・・・いやぁ・・・」

毎回朝早く空舞さんに起こされるので、鍵を開けぱなしにするという選択をしたのは最近である。

「たまたま?です、たまたま」

早坂さんは目を細めてわたしを見下ろした。

「あなたの家は2階なのよ?入ろうと思えば誰でも入れるってわかってる?」

いつもなら、この過保護モードにやれやれと思うところだが、今日はなんでか嬉しかった。早坂さんはいつもと変わらない。普通に話せている事が泣きそうなほど嬉しい。

「それより、コレ、わたしは大丈夫なんで早坂さん着てください」

「話を逸らしたわね?──いいから早く着なさい。まったく・・・なんでいつも薄着なのかしら」

こういう場合、早坂さんが譲らないのは知っている。だからわたしは大人しくその黒いマウンテンパーカーに袖を通した。
なんか、早坂さんの服ばかり着てないか?わたし。

「なんで、マスクしてんだ。まだ腫れてんのか?」

早坂さんの後ろから瀬野さんが顔を出した。

「ヤケドの腫れは引いたんですけど、別の腫れが・・・」

「別の腫れ?」瀬野さんは怪訝そうに眉を寄せた。

「アルコールの大量摂取よ」

グハッ──空舞さんめ!余計な事を・・・。

「昨日は嫌な事があって、ヤケ酒していたのよね?」

──このひと、絶対わざと言ってるよ。
早坂さんの前で何を言うかな。気まずくて顔を上げられない。

「コイツもらしいぞ」

「えっ」顔を上げられないは、撤回だ。

「二日酔いだろ、なあ」

「あんたね・・・」

早坂さんはバツが悪そうに顔を背けた。まさか、わたしと同じくヤケ酒を?

「二日酔いになるほど酒を喰らう理由は知らんがな」

ニヤニヤする瀬野さんを早坂さんが睨む。

「あんたはその顔を日常で見せなさいよ。さて空舞ちゃん、その人面魚を見たっていうのは何処かしら?」

この人も今、話逸らしたよな。

「そこよ。ほら、いるわ」

「えっ!」 早坂さんとハモり、空舞さんのクチバシの方を向く。

「跳ねているのが見えない?」

「あ・・・見えます。跳ねてるっていう高さじゃないけど」

わたしが目で捉えているソレは、水面から3メートルは高く飛び上がっている。

「あー、あたしもギリ見えるわ。なんかいるわね」

早坂さんは目を細めて注視している。

「俺にはサッパリ見えん」小野さんはそう言い、1人川へ向かって歩き出した。わたし達も後に続く。


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