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「そうですね。前よりは、気にならなくなりました。いろいろと。それは、理解してくれる人がいるからで・・・」わたしは頭の上にいる空舞さんを見上げた。「空舞さんとか」
「2人はまだ来てないみたいね」
わたしがラブ(ハート)を示すと、空舞さんは決まって塩対応だ。でも、それは空舞さんの照れ隠し──・・・と思いたい。
「もう見えますか。さすが、神の眼」
わたしも"人間基準"ではかなり視力は良い方だが、空舞さんはその50倍だと聞いている。50倍って、見えすぎて逆に怖そう。
空舞さんの言う通り、2人はまだ来ていなかった。先客もいなく、わたしは川に向かって右側のベンチに腰掛けた。
ここに来るのも、久しぶりな気がする。最近はいろいろあったし、走りに出ることもなかったからな。つい最近までは鬼のように暑かったのに、今はもう半袖では震えてしまう。
──なんというか、早坂さん達に出逢ってからあっという間に時が流れた気がする。それだけ、怒涛の日々を送ってきたという事か。
突然、横風がひゅうっと流れ、身震いした。バタバタと家を出たけど、もう1枚着てくればよかった。
「空舞さん、寒くないですか?」
「わたしは羽で覆われてるのよ、寒くないわ。それに、体内から熱を放出してるから」
「いいな・・・確かに、空舞さんがそうやって頭の上にお腹つけてると、あったかいですもんね」
「あなたは寒くないの?」
「上着着てくればよかったって後悔してます」
「取りに行ってあげましょうか?」
「えっ、空舞さんだけ?」
「ええ、ベランダの鍵は開いてるじゃない。すぐに戻って来れるわよ」
空舞さんの言葉に甘えようと思ったが、すぐに考え直した。
「ダメですよ、はたから見たら服が空を飛んでるじゃないですか」
「人間は風で飛んでいると思うんじゃない?」
「いやぁ・・・さすがに強風でもない限り無理があるかと。大丈夫です、動けば暖まりますから」
その時、空舞さんがわたしの頭から膝へと移動した。そして、空舞さんではない何かがわたしの頭を覆う。
「わっ!」驚いて顔を上げると、早坂さんが後ろにいた。
頭を覆ったのは早坂さんの服だ。
「聞き捨てならないわね」
早坂さんは何故か、お怒りモードだ。
「え?」
「ベランダの鍵は開いてるですって?」
──あ、ヤベ。というか、いつから居たんだろう。