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「なぜマスクをしているの?もう顔の腫れは引いているじゃない」

「いや、顔がちょっと・・・」

「腫れているから?」

「その通りです!聞く必要ありましたかね!」

「これから遊里に会うから気にしているの?」

「・・・人に会うからです。空舞さん、人面魚を見た所ってどの辺ですか?」

「もう少し先よ」

「この先にあるベンチが待ち合わせの場所なんですけど、その辺りかな」

「2つ並んだベンチ?」

「あ、そうです。中間にあるそこだけ2つあるんですよ。よくわかりましたね」

「わかるもなにも、あなたと最初に会った場所じゃない」

「えっ!そうでしたっけ?」

「ええ。隣のベンチからわたしにヤッホーって声かけたじゃない」

「・・・そこだけ聞くと凄くアホっぽいですよね」

「初めて遊里と正輝に会ったのもそこよ。忘れたの?」

「あー、確かに」

「アルコールの飲み過ぎで記憶力が低下しているんじゃない?」

空舞さんは、飲酒=愚かな人間がする事だと認識している。最近は部屋に来ると必ず空き缶専用のゴミ袋をチェックされるのだ。だから最近はこまめに缶を捨てるようにしている。
なんというか、口うるさい嫁さんを持つ旦那になった気分だ。

「何度も言いますけど、そんなに飲んでるわけじゃないですから」

「テーブルに缶が6本あったけど、それはそんなにと言えるの?」

しっかり数えられていた。そういえば、この前2日連続で部屋に来た時も、昨日より3本増えてるわねって言われたっけ。

「昨日はたまたまです!普段は飲んでも2本ですから」

「人間が好きなヤケ酒というやつ?遊里と喧嘩したから?」

「好きでヤケ酒をする人はいないと思うけど・・・そして喧嘩じゃありません」

前から歩いて来た中年の女性が、すれ違いざまにわたしをジロジロと見て行った。
たぶん、何を1人で喋っているんだと思ったんだろう。最近は、こんなのばかりだ。気を抜くと、自分が"普通と違う"事を忘れてしまう。
 

「あなたも、変わったわね」

「えっ、何がですか?」

「最初の頃より、堂々としてるじゃない」

「・・・堂々、ですか」

「ええ。出逢った頃は常に挙動不審だったのに」

わたしの中の挙動不審のイメージは、今にも何かをしでかしそうな怪しい人。つまり、わたしはそう見えていたのか?



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