バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ


「ごめん・・・」

「いやっ、謝らないでくださいよ!俺、雪音さんとデート出来て嬉しいんすから」

「・・・デート」

「はい。俺はそう思ってます」

──どうすれば、こんなに真っ直ぐでいられるんだろう。わたしなんか相手の反応ばかり考えて、恐れて、何も言えないのに。

「一真くんは、純粋だね」

「いや、俺けっこう黒いっすよ」

「そーなの?」

「はい。だって、さっき雪音さんが早坂さんの手を振りほどいた時、ざまあみろって思いましたもん」

「・・・アハ」

そういえばあの時、全力で振り解いちゃったな。それほど、早坂さんの力が強かったから。
何て、思ったかな──。

「めちゃめちゃジェラシー全開でしたね。いつもニコニコ笑ってるから、あーゆう顔もするんだなって」

「ジェラシー・・・ねぇ・・・」

「雪音さんもでしょ?」

一真くんは軽い口調だが、わたしの心臓は飛び跳ねた。

「いや・・・」

「俺には隠さなくていいすよ。てか、さっきも言ったけど、雪音さんわかりやすすぎるから」

恥ずかしさと情けなさが込み上げ、何も言えなかった。

「でも俺、諦めませんから」

「・・・え?」

「俺の気持ちは知ってますよね」

「・・・一真くん」

「早坂さんと付き合ってるわけじゃないんでしょ?」

「え?うん」

「だったら俺にもまだチャンスがあるって事ですよね。いや、そう思いたいんで。俺の事振るのは、まだ待ってください」

──だから、どうしてこんなに真っ直ぐ言えるんだろう。わたしが一真くんだったら、こんなふうに相手の目を見て自分の気持ちを伝えられない。

口を開きかけたわたしを、一真くんが手で制した。

「言っときますけど、俺、わかった以外の返事聞く気ないんで。ヨロシクっす」

その堂々たる宣言に、ポカンと口が開いた。そして噴き出した。

「あー!笑ったぁ!俺、真面目に言ってるのに・・・」

「ゴメンゴメン・・・・・・"わかった"」

一真くんは一瞬目を見開き、屈託の無い笑顔を見せた。


わたしは、卑怯なのかもしれない。
一真くんの気持ちには応えられないのに、自分が傷つきたくないために、一真くんの言葉に甘えている。
正直、どうするのが一真くんのためになるのかわからない。

わかっているのは、わたしが一真くんに"救われてる"という事だけ。


しおり