バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ


あれは──・・・早坂さん?
遠目に見る後ろ姿だが、間違いない。声をかけようと駆け寄ると、1人ではないことに気づいた。早坂さんの陰に隠れて見えなかったが、女性だ。

慌てて足を止めたが、早坂さんが気づき、こちらを振り向いた。

「雪音ちゃん?」

「あ・・・」

「こんな所で何してるの?」

「早坂さんこそ・・・」

「ああ、あたしはデートよ。雪音ちゃん、紹介するわね。あたしの彼女よ」

そう言うと、早坂さんはそばに居たロングヘアの綺麗な女性の肩を抱いた。

「彼女、いたんですか・・・」

「ええ、言ってなかったかしら?」

「言ってません。ていうか、彼女がいるのに、わたしに、あんな事してたんですか・・・?」

早坂さんは首を傾げた。

「あんな事って?あたしがあなたに何をしたの?」

わたしは彼女をチラリと見た。大きな目でわたしを興味深そうに見ている。

「首に・・・キスとか・・・」

「ああ、そんなこと?やーねぇ、あんなのただのスキンシップじゃない。とくに意味はないわよ?」

──吐き気が、した。
ああ、そういう事だったんだ。今までの発言や行動は、早坂さんにとっては何でもない。わたしだけが意味を持って捉えていただけか。

頭の中にグルグルと渦が巻いているようだ。気持ち悪い。誰か、助けて。



「・・・音・・・雪音」

──あれ、誰かに呼ばれてる?

「まったく、どうしてこうも起きないのかしら」

ああ、この声は──・・・「痛ッ!!」

「おはよう。やっと起きたわね」

──おはよう?
状況を把握するまで、時間がかかった。
わたしがいるのは、ベッド。目の前には黒いカラス。その向こうに天井。

──ああ・・・夢か・・・。

「うなされていたわよ。嫌な夢でも見たの?」

「・・・空舞さぁん・・・」

空舞さんを抱きしめようと手を伸ばすと、それを回避してわたしの胸の上に移動した。

「涙をつけないでちょうだい」

「えっ」目を触ると、目尻からこめかみにかけて濡れている。泣いてたのか、わたし。

「あまりにうなされてたから無理矢理起こしたわ」

「・・・額をつつく以外の起こし方でお願いしたいんですけど」

「あなた、声をかけても起きないんだもの。羽で顔を叩かれるのとどっちがいい?」

「どっちも嫌です・・・でも、起こしてくれてありがとうございます」


しおり