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あれは──・・・早坂さん?
遠目に見る後ろ姿だが、間違いない。声をかけようと駆け寄ると、1人ではないことに気づいた。早坂さんの陰に隠れて見えなかったが、女性だ。
慌てて足を止めたが、早坂さんが気づき、こちらを振り向いた。
「雪音ちゃん?」
「あ・・・」
「こんな所で何してるの?」
「早坂さんこそ・・・」
「ああ、あたしはデートよ。雪音ちゃん、紹介するわね。あたしの彼女よ」
そう言うと、早坂さんはそばに居たロングヘアの綺麗な女性の肩を抱いた。
「彼女、いたんですか・・・」
「ええ、言ってなかったかしら?」
「言ってません。ていうか、彼女がいるのに、わたしに、あんな事してたんですか・・・?」
早坂さんは首を傾げた。
「あんな事って?あたしがあなたに何をしたの?」
わたしは彼女をチラリと見た。大きな目でわたしを興味深そうに見ている。
「首に・・・キスとか・・・」
「ああ、そんなこと?やーねぇ、あんなのただのスキンシップじゃない。とくに意味はないわよ?」
──吐き気が、した。
ああ、そういう事だったんだ。今までの発言や行動は、早坂さんにとっては何でもない。わたしだけが意味を持って捉えていただけか。
頭の中にグルグルと渦が巻いているようだ。気持ち悪い。誰か、助けて。
「・・・音・・・雪音」
──あれ、誰かに呼ばれてる?
「まったく、どうしてこうも起きないのかしら」
ああ、この声は──・・・「痛ッ!!」
「おはよう。やっと起きたわね」
──おはよう?
状況を把握するまで、時間がかかった。
わたしがいるのは、ベッド。目の前には黒いカラス。その向こうに天井。
──ああ・・・夢か・・・。
「うなされていたわよ。嫌な夢でも見たの?」
「・・・空舞さぁん・・・」
空舞さんを抱きしめようと手を伸ばすと、それを回避してわたしの胸の上に移動した。
「涙をつけないでちょうだい」
「えっ」目を触ると、目尻からこめかみにかけて濡れている。泣いてたのか、わたし。
「あまりにうなされてたから無理矢理起こしたわ」
「・・・額をつつく以外の起こし方でお願いしたいんですけど」
「あなた、声をかけても起きないんだもの。羽で顔を叩かれるのとどっちがいい?」
「どっちも嫌です・・・でも、起こしてくれてありがとうございます」