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「雪音さん、決まりました?」
「うん、この明太子パスタにする」
「明太子クリームもありますよ?」
「ううん、あさっりしたやつのほうが好き」
「じゃあ俺はクリームにしようかな」
買い物を終えて、わたしと一真くんは最近オープンしたばかりのイタリアンへやってきた。平日の早い時間というのもあり、わたし達はが入店した時はそれほど混んでいなかったが、徐々に席が埋まってきている。
「っていうか、なんでここにしたんだろ、俺」
「ん?なにが?」
「いや、普段、店のまかないでパスタ食べてるじゃないですか・・・すみません、全然考えてなかった」
真剣な面持ちで何を言うかと思えば、一真くんはあからさまに落ち込んでいる。
「プッ」
「今、笑いましたね?」
「いや、可愛くて。てかわたしパスタ好きだから。嫌だったら普通に言ってるよ」
「・・・良かった」
一真くんは心底安心したように笑った。大袈裟なんだから。でも、それが可愛くもある。
「それに、同じイタリアンで働く者として調査は必要だしね?」
今度は一真くんがプッと笑う。
「調査すか。確かに、そうすね。どうします?TATSUよりレベルが上だったら・・・」
「んー、その時は正直に店長に言う」
「えっ、なんて?」
「うちより美味いイタリアンが出来ましたよって」
一真くんはハハッと笑った。
「それは可哀想すぎる。店長の反応が想像出来ますね」
「あたしは春香の反応も想像出来るよ」
「なんすか?」
「そりゃあ、上には上がいるでしょうよ」
一真くんはまた盛大に噴き出した。
「確かに。春香さん言いそ〜」
こうやって見ると、一真くんってやっぱり良い男なんだなと、実感した。クシャッとした笑顔が可愛い。
それは早坂さんも──・・・脳内で笑うあの人を、すぐに消し去った。いちいち思い出す自分にうんざりする。その連鎖で頭に浮かぶ、あの女性の顔。考えるな、考えるな。
「気になりますか?」
「・・・えっ?なにが?」
「早坂さん」
「いや全然」
「雪音さん、わかりやすいから」
どんな顔をしていいかわからなかった。本音は、気になってしょうがない。一真くんが凌さんのシャツを選びながらわたしに意見を求めた時も、本当は心ここに在らずだった。一真くんの言う事が耳に入ってこなかった。
一真くんは何も言わなかったけど、わかっていたんだ。そんな自分が、そう思わせた自分が、憎い。