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「2人で?」
「・・・そうですけど」
早坂さんが一真くんに"敏感"なのはわかっていたけど、今日は本気で苛ついているように見えた。
「なんで?」
いつものような圧は無く、冷静な口調だ。
「なんでって・・・」早坂さんこそ、この女性は誰ですか?聞きたいけど、わたしにそんな勇気はない。
「約束してたんです、雪音さんと。何か問題ありますか?」
一真くんは表情を崩さずお客さんに接するような口調だけど、早坂さんに向ける目は鋭い。
そ
「あたしは雪音ちゃんに聞いてるのよ」
早坂さんは笑顔を見せたが、その目は冷ややかだ。
天然記念物のわたしでも、わかる。早坂さんが一真くんに"嫉妬"しているのは。でも、自分だって女性と2人でいるじゃない。モヤモヤが募り、これ以上この場に居たくない。
「一真くんの言う通りですよ。今日は約束してたんです。一真くん、行こ」
その場を去ろうと1歩踏み出したわたしは腕を掴まれ、すぐさま引き戻された。
「・・・なんですか」
「話は終わってないわ」
あまりに真っ直ぐ見てくるから、その目から逃れる事が出来ない。
早坂さんがピクリと反応した。一真くんが、わたしを掴む早坂さんの手を掴んだから。
「雪音さん困ってるんで、離してもらっていいですか?」
ドキリと心臓が跳ねた。予期せぬ一真くんの行動と、見た事のない早坂さんの顔に。こんなに怖い早坂さんは初めて見た。
これは、一触即発の雰囲気だ。わたしは掴まれた腕を振り離した。
「お互い、用事があるので、ここで失礼します。行こう一真くん」
逃げるように、その場から去った。今度は早坂さんも何もしてこない。どんな顔をしているのかわからないけど、視界の隅で早坂さんが拳を握りしめるのが最後に見えた。