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わたしは、難しい顔で携帯を操作しているスーツ姿の男性の横に陣取った。
ふと反対側に目をやると、自分と目が合った。入口に沿う壁の1スペースが、大きな鏡になっている。
──我ながら、色気というモノは皆無だ。なんならパッと見、男では?背も高く、髪も短いというのもあるが、それ以前の問題という事はないかしら?
そういえば、おばあちゃんが亡くなったのを機にバッサリと切ってから、ずっとこのままだ。たまには、伸ばしてみようかしら?──って、わたしは早坂さんか。最近、早坂さんの事ばかり考えているせいか、脳内が早坂さん化してきている。
そう、──早坂さんだ。
早坂さんと、鏡越しに目が合った。
「雪音ちゃん?」
「・・・・・・えっ!?」
「何してるの?」
わたしが見ているのは、鏡に映る早坂さん。もはや、幻覚まで始まったか?
「ちょっと、大丈夫?」
肩に触れる感触にビクッと身体が反応して後ろを振り返った。
「・・・本物だ・・・」
「ここで何してるの?」
「え・・・早坂さんこそ」
そこで、わたしの目線が早坂さんの顔より下へ移動した。正確には、後ろへ。
早坂さんの身体に隠れて見えなかったが、横からひょこっと顔を出した。とても、綺麗な女性が。
「あたしはちょっと買い物があってね。あなたも?」
早坂さんの言葉が、頭に入ってこない。わたしをジッと見つめるこの女性は?
見つめていたのはわたしもだった。気づいた早坂さんが後ろの女性を見た。
「あ、雪音ちゃん、彼女はね・・・」
「雪音さん!」
わたしを呼ぶ声に反応したのは、早坂さんのほうが早かった。一真くんがこちらへ走って向かってくるのが見えた。
「すみません!来る途中に道聞かれてっ、教えても全然わかんないから案内してたら・・・」一真くんは目の前まで来ると、呼吸を荒げながら膝に手を置いた。「もー、こんな時に限って・・・って、えっ!?・・・早坂さん!?」
一真くんは驚いて早坂さんを見上げ、早坂さんは眉間にシワを寄せて一真くんを見下ろした。
「なんで、早坂さんがいるんすか?」
早坂さんは答える代わりにわたしを見た。
「ここで何してるの?」
「えっ、あ、待ち合わせしてて・・・」そんな事より、わたしはこの女性が気になって仕方ない。胸まで伸びるストレートヘアに彫りの深い顔。華奢で背も高く、モデルみたいだ。