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帰りの車も当たり前のように瀬野さんが運転席へと向かった。早坂さんは後部席のドアを開けると、珍しく自分から先に乗り込んだ。

「・・・なんですか」

「ほら、おいで」

早坂さんはシートに座り、わたしに向かって手を広げている。

「なんで?」

「今度はあたしが抱っこしてあげるわ」

「結構です」

「わたしはここで失礼するわ」言ったのは、肩にいる空舞さんだ。

「えっ!一緒に行かないんですか?」

「あなた達と同じ空間にいるのは苦痛よ」

「えええ・・・」

「すぐ自分達の世界に入るしね。じゃあ、また」

そう言い、空舞さんはいつものように夜の空へ羽ばたいて行った。

「同感だ」やっと聞き取れる声で瀬野さんが囁いたのは、聞こえなかった事にする。

「もお、つれないわねぇ」

──この人だけは、気にも留めていないようだ。わたしは溜め息と共に、車へ乗り込んだ。





広いシートに深く腰掛け車に揺られると、なんとも言えない疲労感が一気に押し寄せてきた。そりゃあそうだ、鬼火の件からまともに身体を休めていないのだから。
でも、それ以上に──・・・。

「よかったわね」

「・・・え?」思わず、自分が口にしていたと錯覚しかけた。

「泳斗くんよ。あそこに帰す事にならなくて」

「・・・はい。わたしも今、そう思ってました」この人は本当に、わたしの脳内が見えてるんじゃ?

「まさか財前さんがああ言うとは思わなかったわ」早坂さんは笑いながらルームミラーで瀬野さんと目を合わせた。

「わたしもです。でも、本当にありがたかったです」

早坂さんはやれやれと言うように笑い息を吐いた。

「まるで母親のようね。少し入れ込みすぎじゃない?」

「あは。なんか、泳斗くん見てるとほっとけなくなるんですよね」

あの子が1人寂しい想いをしていたのは事実だ。人間じゃないとはいえ、ただの小さな子供でしかない。

「まあ、それがあなたの良い所でもあるんだけど。あたしは少し心配になる時があるわ」

早坂さんの切なそうに笑う横顔に、胸がきゅうっと締め付けられた。

「大丈夫です。早坂さんが見ててくれるから、わたしは安心出来るんです」

早坂さん元々大きな目を更に大きくした。もしかして、大胆な事言ったか、わたし。

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