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泳斗くんはクルリと向きを変え、わたしの胸に抱きついた。
「ユキネもここに住む?」
「アハハ、わたしは一緒に住めないけど、遊びにくるね」
「いっぱい?」
「ふふ・・・うん」
「・・・フフ」──あ、今のはきっと、わたしの真似だ。泳斗くんは嬉しそうにわたしの服をギュッと掴んだ。いやだから、可愛すぎだろうって。
「羨ましいわぁ」
隣から聞こえてきた呟きは無視した。
「よし、そうと決まったら帰るぞ」言いながら瀬野さんが立ち上がる。
「そうだね、もういい時間だ。雪音ちゃん、いつでも来るといいよ。鍵は開いているから勝手に入ってもらって構わない」
「ええっ!?・・・はい、ありがとうございます」
早坂さんもだが、この人達には戸締りという概念は無いんだろうか。
3人に見送られ、わたし達は財前さんの家を後にした。
泳斗くんは最後の最後までわたしの胸にしがみつき離れようとしなかったが、またすぐに会いに来るという約束で解放してくれた。
その間、雪人さんはずっと頭を下げていて、それはわたしが玄関の扉を閉めるまで続いた。
「なんか、不思議な人ですね」
車に向かいながら、ボソりと呟いた。
「誰が?」
「雪人さん」
「興味持っちゃダメって言ってるでしょ!」
「持ってません。なんか、ずーっと無表情だし、ロボットみたいだなって・・・」
「本当にロボットなんじゃないか」真面目なトーンで言ったのは瀬野さんだ。「ありえなくもないだろ」
「まあ、そうね。喜怒哀楽の何1つとして見た事がないわ。案外中身は機械だったりして」
「・・・2人してやめてくださいよ。あの人は、その、人間ですよね?」
「ええ、ロボットかはわからないけど妖怪でない事は確かよ」
「言うなら財前さんの付き人だ」
「・・・付き人、ですか」
「なぁに?ヤケに雪人のこと気にするわね」
「え?あ、いや・・・2人以外に初めて会ったから。その、"見える"人に。なんか新鮮で」
「それを言うなら、他にもっといるぞ。見える奴らは」
「なるほど・・・あ、ムカデの時、電話よこした人もそうですよね。確か、須藤さん?」
「よく覚えてるな。そのうち会う事もあるだろ」
「いいのよ会わなくても。ヤローは」
「お前もヤローだろ」
「だからあたしだけでいいの。雪音ちゃんの担当はあたしなんだから。ね?」
ね?って、そんな笑顔で言われても──担当って、なんだ。