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そこに立っていたのは、財前さんと同じく着物姿の男性だ。目にかかる黒髪で表情はよく見えないが、20代だろう。痩せ型で肌も白い。
「失礼します」
男性は財前さんの少し後ろに膝をついて座った。
「紹介するよ。深山 雪人(みやま ゆきひと)だ。雪人、彼女が雪音ちゃんだよ」
雪人さんはわたしに向かって頭を下げた。
「お初にお目にかかります。雪人と申します」
「あっ」わたしも慌てて頭を下げる。「初めまして、中条雪音と申します」
「財前さんからお話は伺っております。今後もお会いする機会があるでしょう。どうぞ宜しくお願いいたします」
「は、はっ!こちらこそ!」
隣で早坂さんがプッと笑うのが聞こえた。
なんというか、礼儀正しい人だ。自然と背筋がピンと張る。
「雪人、泳斗くんの事、頼んだよ」
男性は髪の隙間から泳斗くんを見つめると、わたしにしたように頭を下げた。
「宜しくお願いします」
── そんな、子供相手に頭を下げなくても。よほど真面目な人なのだろうか。
「ユキヒト!」泳斗くんが雪人さんを指さして言った。
「泳斗くん。ユキヒトさん、だよ」
「構いません」
──なんか、無表情でロボットみたいな人だ。
「あの、聞いてもいいですか?」
わたしの問いに雪人さんは顔を上げた。
「なんでしょう?」
「ゆきひとさんのゆきって、降る雪ですか?」
「・・・はい、そうですが」
雪人さんが不思議そうにわたしを見ているのは、続きがあると思っているからだ。
「わたしと同じか聞きたかっただけで、とくに意味はありません・・・スミマセン・・・」
「・・・そうですか」
いたたまれない沈黙に包まれる。
まったく、この口は、どうでもいい事をペラペラと。
「ちょっと、同じ雪だからってなんなの?」早坂さんがグイッと近づく。「そんなに嬉しいわけ?」
「ただ聞いただけです」
「見つめ合ってたじゃない」
「違います」
「興味持っちゃダメよ!」
「話を飛躍しすぎです」
「雪人!アンタ改名しなさい!」
「無理ですね」
冷静に返す雪人さんが、ジワる。
「なに笑ってるの?今、雪人見て笑ったでしょ」
「違いますよッ、てか何なんですかさっきから!」
「ボク、ここに住むの?」
泳斗くんが小さな声で呟いた。
「ああ、嫌かい?」
今度は大きく首を振る。「ううん!ボク、ここがいい!」泳斗くんは目をキラキラさせてとても嬉しそうだ。
「ふふ、よかったね泳斗くん」