バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

13


そこに立っていたのは、財前さんと同じく着物姿の男性だ。目にかかる黒髪で表情はよく見えないが、20代だろう。痩せ型で肌も白い。

「失礼します」

男性は財前さんの少し後ろに膝をついて座った。

「紹介するよ。深山 雪人(みやま ゆきひと)だ。雪人、彼女が雪音ちゃんだよ」

雪人さんはわたしに向かって頭を下げた。

「お初にお目にかかります。雪人と申します」

「あっ」わたしも慌てて頭を下げる。「初めまして、中条雪音と申します」

「財前さんからお話は伺っております。今後もお会いする機会があるでしょう。どうぞ宜しくお願いいたします」

「は、はっ!こちらこそ!」

隣で早坂さんがプッと笑うのが聞こえた。
なんというか、礼儀正しい人だ。自然と背筋がピンと張る。

「雪人、泳斗くんの事、頼んだよ」

男性は髪の隙間から泳斗くんを見つめると、わたしにしたように頭を下げた。

「宜しくお願いします」

── そんな、子供相手に頭を下げなくても。よほど真面目な人なのだろうか。

「ユキヒト!」泳斗くんが雪人さんを指さして言った。

「泳斗くん。ユキヒトさん、だよ」

「構いません」

──なんか、無表情でロボットみたいな人だ。

「あの、聞いてもいいですか?」

わたしの問いに雪人さんは顔を上げた。

「なんでしょう?」

「ゆきひとさんのゆきって、降る雪ですか?」

「・・・はい、そうですが」

雪人さんが不思議そうにわたしを見ているのは、続きがあると思っているからだ。

「わたしと同じか聞きたかっただけで、とくに意味はありません・・・スミマセン・・・」

「・・・そうですか」

いたたまれない沈黙に包まれる。
まったく、この口は、どうでもいい事をペラペラと。

「ちょっと、同じ雪だからってなんなの?」早坂さんがグイッと近づく。「そんなに嬉しいわけ?」

「ただ聞いただけです」

「見つめ合ってたじゃない」

「違います」

「興味持っちゃダメよ!」

「話を飛躍しすぎです」

「雪人!アンタ改名しなさい!」

「無理ですね」

冷静に返す雪人さんが、ジワる。

「なに笑ってるの?今、雪人見て笑ったでしょ」

「違いますよッ、てか何なんですかさっきから!」

「ボク、ここに住むの?」

泳斗くんが小さな声で呟いた。

「ああ、嫌かい?」

今度は大きく首を振る。「ううん!ボク、ここがいい!」泳斗くんは目をキラキラさせてとても嬉しそうだ。

「ふふ、よかったね泳斗くん」


しおり