出会い
俺は気を失った見張り役を担ぎ、家の玄関まで行ってドアを叩いた。
「すみません! 家の前で誰か倒れています!」
家の中からこちらに近づいてくる人の気配を感じる。
ドアがゆっくりと少しだけ開いた。
そこから不信感まるだしの表情を浮かべた金髪の男の顔が見える。
「この人が倒れてたんです。寝ているという感じでもなかったので近寄って確認してみたら、どうやら怪我してるみたいなんですよ。この家の前で倒れていたんですけど、お知り合いですか?」
俺は白々しくつらつらと嘘をついた。
金髪男はぐったりとした見張り役の姿を見て驚き、
「そいつは確かにこの家の者だ。迷惑をかけたな」
と言ってドアを完全に開けた。
中の様子が見える。
玄関を入ってすぐは廊下になっていて、その奥にリビングがあるようだ。
奥から二人の男がこちらの様子を窺っている。
「とりあえず中まで運びましょうか」
「……ああ。分かった」
金髪男は嫌そうな顔をしながらも承諾した。
俺は金髪男と協力してリビングへと見張り役を運び込んだ。
よし。
侵入成功。
リビングには救出対象はいないようだ。
それにしても、こんな怪しい奴を犯罪中のアジトの中に招くなんてアホにも程がある。
俺は内心爆笑しながら、一階はリビング以外使われている形跡がないことを確認した。
床の埃の積もり方を見るに、最近他の部屋の扉を開いたことはないはずだ。
つまりお姫様は二階に囚われている。
あとは二階に敵がいないことを確認したら行動を起こせる。
「この人、顔を怪我しているみたいですけど、喧嘩でもしたんですか?」
俺は馬鹿なふりをして無遠慮に質問した。
金髪男が困惑気味に答える。
「いや、そんなことはないんだが……。なぁあんた、こいつはどういう状態だったんだ?」
俺は咄嗟に頭の中で適当な回答を用意する。
「うつ伏せで道路のど真ん中で倒れてたんですよ。一体何があったんですかね。……ところで、この家って最近まで空き家だったと思うんですけど、あなた方はいつからここに住んでいるんですか? いや~実は私、近所に住んでいる者なんですけどね? この家買い取ろうかなって悩んでたことがあったんですよ。結局買うのは止めたんですけど、印象には残ってて。あなた方が購入したんですね。私、この家の前にはよく散歩で通りかかるんですけど、人が住み始めたなんて気づかなかったなぁ」
相手に喋らせる隙を与えないように、俺は途切れることなく言葉を紡いだ。
我ながらよくもまぁこんなにスタスタと嘘をつけるものだと感心する。
こういうのは、情報収集のバイトの経験が活きているのだろう。
俺はなんの躊躇いもなく嘘をつける。
三人の男たちは分かりやすく狼狽した。
こいつらは嘘つくの下手だなぁ。
金髪男が震える声で答える。
「つ、ついこの前から住み始めたんだ」
「へぇ! この気絶してる方と一緒に、四人暮らしですか?」
俺は四人という部分を少し強調して訊いた。
「ああ。そうだ」
この質問には、金髪男は堂々と答えた。
よし、充分だな。
反応を見るに、こいつらは本当に四人だけしかいない。
アホっていうのは、分からないことに対する質問にはあやふやな答え方をするが、理解できることに関しては無駄に自信満々に答えるのである。
こいつらは四人で、四人ともこの場に揃っている。
要するに、二階には敵はいないってことだ。
安心して暴れられるな。
俺は
「そっすか。了解っす」
と言いながら銃を取り出した。
この銃は2つのモードを選ぶことができる。
実弾モードとエネルギー弾モードだ。
今回はエネルギー弾を使う。
この弾に殺傷能力はない。
撃った相手を気絶させるだけだ。
こいつらは別に殺す必要はないため、実弾ではなくエネルギー弾を使うのだ。
突然の俺の行動に反応が遅れた男たちを次々に撃つ。
1、2、3。
はい終わり。
俺は倒れた男たちが気を失っていることを確認してから二階に上がった。
おそらく元々は子供部屋として使われていたであろう部屋に、あいつはいた。
部屋の隅っこに体操座りして、死んだような目で床を見つめている。
月明りが窓から入り、あいつのいる場所をスポットライトのように照らしていた。
あいつは俺の存在に気づくと、カメのように首をすぼめながら俺のことを見た。
「よう。お前が囚われのお姫様か」
「……あなたは、誰ですか」
怯えた目を向けてくる。
見たところ、歳は俺と同じか少し下くらいだった。
「俺はなんでも屋。安心しな。敵じゃねぇよ。お前の親父さんに依頼されてお前を助けに来たんだ」
「そう、ですか……」
あいつは少しだけ緊張を解いて頬を緩めた。
「さ、行こうぜ。立てるか?」
俺はあいつに近づいて手を差し伸べた。
しかしあいつは
「お気遣いなく。大丈夫です」
と言って俺の手を取らずに自分で立ち上がった。
アホ共のアジトを出て、少し歩いて馬車に戻った。
馬車まで向かう間、あいつの足取りがしっかりとしていることに俺は驚いた。
こんな目に遭って身体的にも精神的にも疲れ果てているだろうに。
強い娘だな、と思った。
馬車まで戻ると、馭者は爆睡してた。
「おい、馭者さんよ。待たせて悪かったな。帰ってきたぜ」
俺が声を掛けると、馭者は眠そうに目を擦りながら
「……んー。あ、お帰りなすってたんですかい。いや~失礼致しやした。へへ。つい寝ちまってやした」
と、はにかんだ。
「別にいいからさ。まぁ出してくれよ」
「へい。……おや? そこのお嬢さんも一緒ですかい?」
「ああ。この子も乗る」
「承知致しやした」
馭者は俺たちが乗ったのを確認してから馬車を動かし始めた。
状況によっては逃走劇を繰り広げなければならないかもな、と思っていたのだが予想以上に相手が弱すぎて全滅させてしまったので、のんびりと帰路に着くことができた。