第28話 響け!!手と手を取り合う希望のアルモニー!!!
「グゥウウアあぁぃいあぐおオカアアァアア!!!!」
イブニングの攻撃を利用する事によって、黒の結界を作り出していた機械を破壊する事に成功した3人。
結界からのエネルギーの供給を失った、イブニングは河川敷の下に転げ落ちていき、今もずっと苦しみの声を上げている。
「イブニング……」
「やっぱり、あの姿を保つには大量の闇エネルギーが必要だったのね」
「皆さん!結界を破れたのですね…!」
アンジェストロたちの背後から、妖精女王がゲート越しに声をかける。
「女王様ぁ~、あとはイブニングを…って感じですぅ~」
「なるほど……おや、カオルさん…いやソルさん。貴方はまだ私が分けた力を使っていないのですね」
「え、あっ…はい……」
「まだ使ってなかったの!?」
その事実に、シエルが心から驚いた。
まさか機械を壊す時に、女王の力”真名解放”を使わない事は無いと思っていたからだ。
「攻撃じゃなくてもぉ、浄化技でも女王様の力って使えないのかなぁ~」
「う、うん……でも、どうしても使えなかったんだ…。ラパンからは使うべき時に使えるんじゃないかって…」
「なるほど…分けた私が言うのもなんですが、もしかしたら今かもしれませんね。力を使うべき瞬間は」
女王は、ソルを見つめながら言った。
ソルはその女王の言葉に、不思議そうな顔をして首を傾げる。
だがメールはその意図を理解できたようで、イブニングの方を見ながら呟いた。
「そっかぁ…イブニングを助けるために力を使うって事かぁ…」
「えっ…それって…」
シエルがメールの呟きに反応すると、女王は肯定するように頷いた。
女王はソルに、ソルが求めていたイブニングを討つ以外の方法、その願いにソルの中の力が応えようとしているのだろう、故に結界の中では使えなかったのだろう。と伝えた。
ソルは階下のイブニングを見る。ジタバタと暴れて体のいたるところから、闇エネルギーが零れており呻き声を上げていた。
「……そう…ですね、私…私の力はここで使うべきかもしれないですね…」
ソルもイブニングを助けたいという思いが高まり、身体に力が入る。
「今あたしも、メールも力の解放の反動で、フェアリニウムを集められなくなってるから、ソルに任せるしかないわね」
「そうだねぇ…申し訳ないよぉ…」
「い、いや大丈夫気にしないで!私、やるよ!」
ソルは深呼吸しながら、イブニングへ対峙する。ただ河川敷の下に降りるのはイブニングの反撃を受ける可能性があるため上から浄化する事にした。
胸元に両手を当て、目を閉じ意識を集中させる。
すると、力を使うためのキーワードと技の名前が頭の中に浮かぶ。
ようやくソルにも浮かんだ、それと同時にソルはわかった、何故あの時使えなかったのか。
使うべき時に使うのか、という事が間違っていなかったという事が。
ソルは目を開け、後ろにいたシエルたちの方へ振り向いた。
「2人の力…いや、4人の力を貸して…シエル、メール…!」
ソルに言われ、どういう事かと困惑する二人だったが、ソルがシエルとメールの手を握り、自分が先ほど立っていた位置に引っ張った。
「ど、どういう事なの?」
「メールたち何もできないよぉ?」
連れられた2人にも手を握り合うようにソルは指示をする。
戸惑いつつも、言う通りにシエルとメールは手を握る。
「急にごめんね、女王様の力を使うには私たち6人の力が必要みたいなんだ。そう頭の中に浮かんできたの」
ソルは左手でシエルの右手を、右手でメールの左手を握り、再び目を閉じる。
そして胸の奥に何か力の源を感じ、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「”真名解放しんめいかいほう”…!」
言葉に呼応して、ソルの胸の奥からフェアリニウムが溢れ出す。そしてソルの腕を通ってシエルとメールにもフェアリニウムが浸透していく。
「こ、これって…!?」
「あったかい~…ソルちゃんの光がぁ、メールたちを包んでいくみたいだねぇ…」
そしてアンジェストロたちの胸から融合していた妖精たちが、静かに出てくる。
ミランもエポンも、慌てるもののラパンがもソルと同じようにミランとエポンの手を掴む。
外側には人間が、内側には妖精が手をつなぎ合い円を描いていた。
外から見ていた妖精女王は、少し驚いていた。
理由は単純だ。女王が分け与えた力は新しい技を生み出すようなモノではなく、元々使える技を更に強化する力だったのにも拘らず、今ソルたちは新しい技をしようとしているからだ。
ソルたちの技を何も知らない女王だが、シエルとメールたちの困惑振りを見ていたら、その技がアンジェストロたちに馴染みのないものだと理解できた。
故に女王は、他の2人よりソルの事を注視し始めた。
「この技は、人と妖精合わせて6人でやる技…究極の浄化技…」
「究極のぉ……」
「浄化技……なるほど、ソルらしいわね」
シエルとメールは笑い合い、ソルと同じように瞳を閉じた。
すると、先程まで何も感じなかった、シエルとメールの胸の奥に再びフェアリニウムが集まり始めた。
そして二人に頭の中にも技の名前が浮かんでくる。
言わずとも、手を繋いでいる全員が同じ言葉が浮かんだと理解できていた。
そして虹色のフェアリニウムがアンジェストロたちの周りを、螺旋を描きながら地上から空へ舞い上がりながら集まっていく。
そしてアンジェストロたちは手をつないだまま、ふわりと浮かび、イブニングの方へ円の上部が向けられる。
手をつないだまま空中で横向きになったという体勢だ。
すると、その濃いフェアリニウムを感じ取ったのかイブニングが咄嗟に拳を振り上げ、アンジェストロたちに飛び掛かろうと、足に力を入れた。
苦しんでいても、そういった危機感は全く鈍ってはいなかった。
「ヤバっ…!」
《任せるラパ!!”硬直!!”》
ソルの身体から外に出ていたラパンが、動こうとしたイブニングに向かって、自身の超能力を使用する。
アンジェストロ内にいると使えなかったが、今は外に出ているため使えるようになったのだ。
そしてラパンの咄嗟の超能力で、動きを止められたイブニングは腕を振り上げしゃがんだ体勢のままになった。
そして動きを止めたと同時に、アンジェストロたちのフェアリニウムの集束を終え、幾重にも重なって集まった虹色の光が極限状態となり、まるで小さな太陽の様になっていた。
「今だぁ!!」
「「「「「「アンジェストロ・アルモニー・リベラツィオーネ!!!」」」」」」
6人で作った円の中から螺旋を描きながら放出された虹色の光が、河川敷の下のイブニングに降り注ぐ。
「アアァアアおおぁぉオおアア!!!あぁああ!!」
浄化の光を浴びたイブニングは叫び声を上げ、苦しみ始める。
だがただ苦しむのではない。イブニングの身体からボトリボトリと闇エネルギーが落ちていくのだ。イブニングの元の身体の周りに付いた闇エネルギーだけではなく、体の中に注がれていた闇エネルギーも、余すところなく虹色の光は浄化していった。
「ぐぉああうクウアアァアアああ…アぁアア……」
イブニングの身体から闇エネルギーが全て浄化された後、光は更にイブニングの心も浄化していった。
数分後、イブニングの浄化が終わり、河川敷の下には元通りのイブニングが倒れていた。
6人は手を離し、横並びになる。妖精たちは再び静かに人間たちの身体と融合する。
「はぁ……はぁ……」
「すごい力だったわ…3人で浄化技を撃った時より強かったんじゃないかしら…?」
「流石ソルちゃんの”真名解放しんめいかいほう”の浄化技だねぇ~」
3人は各々技の所感を呟く。ソルは疲労のあまり息切れだけだが。
そしてヘロヘロになりながらも、ソルはイブニングの元へ降りていく。
心の中ではラパンが、大慌てで気を付けろと言っているがソルの耳には入っていない。
倒れていて反応が無い。死んでいないだろうか……怪我はどれだけか……。
ソル自身も驚くほどに彼女はイブニングを心配していた。
自分の母親をリコルドにして、学校にまで攻めてきた敵を。
初めて戦った時も抵抗できないラパンを一方的に攻撃していた敵を。
ソルは心から心配していた。
「はぁ…っ!はぁ……っ!い、イブニング…!」
声をかける。
イブニングの反応は無い。
「そんな……はぁ…っ…はぁ…っ…嘘でしょ……はぁ…イブニング…!」
今度は肩を揺らす。
その瞬間イブニングが体を起こし、ソルの右腕をつかんだ。
「ソル!」
「ソルちゃん~!」
シエルとメールが、素早く戦闘態勢に戻り、グルダンとガントレットでイブニングを攻撃しようとする。
「ま、待って!」
だがそれをソルは掴まれていない左腕で制止する。
シエルはソルの意志を尊重し、踏み込むのを止めたが、河川敷の下でいつでもグルダンを振るえるように構えは解かなかった。
メールも同じように、シエルの隣に立ちファイティングポーズを取った。
「この手…そんなに力が入ってない…もう、貴方にも力が無いんでしょう?」
ソルがそう言うと、イブニングは苦々しい顔をした。
「………うるせぇ…」
「私たちの勝ち……勝ちだよ。貴方が用意していたリコルドも、貴方が隠し持っていた機械だって壊したんだから……」
「……うるせぇ……」
「ねぇ…これで終わりに出来ない…?ラパンたちを狙うの…この人間界に色々するのも…」
「………」
「あの技がある限り、きっと私たちはリコルドに負けないし…イブニング、貴方にだってまた勝ってしまう…」
「…なら殺せ…」
「そんな事できないよ……イブニングも気づいているでしょう?私が攻撃できないの」
「………」
「私も清廉潔白に生きてきたわけではないけど…、自分の間違いを反省すればきっとわかり合えるはず…」
「わかりあえねぇよ……ドーン帝国は……闇の世界は…そういう所じゃねぇ…」
「えっ……」
イブニングはソルの腕を離し、しっかりと体を起こし足を投げ出して座る姿勢をとった。
「俺たちは闇の世界で生きて来たんだ…ひっきりなしに統治者が変わる世界で…前の”フェデレーション”なんて地獄だった……姉さんと必死に生きて来たんだ…」
「イブニング……」
「今の皇帝陛下に拾ってもらって…もっと見てもらえるように頑張って…妖精界侵攻作戦の隊長に選ばれた……姉さんと違って出来が悪かった俺は、誰より目に見える成果を出さなきゃいけなかった。結局妖精3匹逃がしたがな…」
「それで、私はラパンたちに出会えた…」
「お前たちに都合の良い言い方をするとそうなるだろうな…。俺からすれば大失態だぁ……はぁ…まあいいもう関係の無い事だ」
「関係ないって…」
「お前たちのあの力……俺の中の闇エネルギーだけじゃない。邪念とか、力への執着心とか…そういう物まできれいさっぱり消しちまったようだぁ……あんなにソル、お前に感じていた怒りもねぇ…妖精どもに対しても何の感情も浮かばねぇ…」
ソルは内心ビックリした。
イブニングの感情にすら作用する浄化技であったことに。
そしてイブニングの表情が、どこか諦めたような顔をしているのに気づいた。
「ははっ……わかったよ。俺はもう手を出さない。ドーン帝国がどうするかは知らねぇがぁ…俺はもう追いかけねぇよ」
イブニングはそう言った後に立ち上がり、「あばよ」と告げ黒い霧となって霧散していった。
どうやらこの消えるのは闇エネルギーなどは関係が無かったようだ。
「イブニング待っ…!」
消える瞬間、ソルは呼び止めようとするもイブニングは待つ事は無かった。
「お、終わったの…?」
「そうみたい~?」
「……結局ちゃんと話せなかったな…私の思いを言うだけ言っただけだった…」
落ち込むソルに、シエルが彼女の肩を叩き優しく呟いた。
「確かに全部がソルが望む通りにはならなかったかもしれないけれど、ほら討つ以外の方法でイブニングとの戦いを終わらせるっていうのは、できたんじゃないかなって……あたしは、そう思うわ」
シエルの言葉に救われた様な気持ちになったソルは、小さく頷いた。
すると、河川敷の上から”星の輝き”のゲートごと女王が下りてきて、アンジェストロの3人を労った。
「よくぞイブニングを撃退しました。全員が全員納得のいく終わり方ではなかったかもしれませんが…一先ず、妖精界の危機は去りました」
シエルとメールはよかったと、心から喜んだ。
ソルも少し心残りはあるものの、ラパンの故郷を守れた事を嬉しく思った。
「妖精界の方は、私が外部からの攻撃を防ぐ結界を張る事で守っています。特に闇の世界からの攻撃には強いので心配はありません」
女王はその結界を張った事で、自分が弱体化してしまっている理由を伝え、今妖精界には危険が無い事を教えてくれた。
「では…ミランたちはもう妖精界に…?」
ふとシエルが女王に聞く。
シエルが気にしていたのは、妖精たちとの別れだ。
ソルとメールもそれに気づき、少し寂しそうな表情を浮かべる。
「私も元々はイブニングを倒せればそれで…と思っておりました。しかし、まだイブニングがどうなったかわからない…それ以上にドーン帝国自体はまだ健在です。いつ、アンジェストロたるあなた達の身に危険が迫るとも限りません」
「で、では…」
「もうしばらく妖精たちには人間界にいてもらいたいのです。もちろん、イブニングによって誘拐された妖精たちはこちらに戻させていただきますが…」
ソルは女王の話で、そういえばイブニングの最後に作った3体のリコルドの素にされていた妖精たちはどこに行ったのか、と思い出した。
「あ、あの先ほどまで戦っていたリコルドの妖精たちは…」
とソルが質問をしようとすると、女王は、「黒の結界に入る前に、メールさんから受け取り、こちらで療養させておりますよ」と答えてくれた。
その返答に、ソルは安堵し自分の家にいる多くの妖精たちもすぐに引き渡すと伝えた。
「……さて、言うべき事は言いました…。”星の輝き”もラパンたちに預けます、万が一に連絡が取れる手段は残しておきたいですから」
ソルの中のラパンは預けてもらえるという事に、とても喜んでいたようで声が聞こえるソルは、ふふっと軽く笑った。
「ソルさん、シエルさん、メールさん、皆さんはとても勇敢に戦ってくれました。重ね重ね妖精の長として心からお礼を申し上げます…」
女王は深々と頭を下げた、
ソルたちは内心慌てたが、相手の立場的に礼を拒否する方が失礼だと思いそのお礼を受け入れた。
「特にソルさんは、深い慈愛と諦めない心…正しくアンジェストロ伝説の通りの人だといえましょう」
「慈愛だなんて…あまり私に合ってない言葉な気がします…」
「今はそう思うかもしれません。ですが、いつか自分の行いを振り返った時に、わかる事です」
「そうなんですかね…」
釈然としないソルだったが、メールがソルの手を取り、「ソルちゃんは優しいっていうのはわかるよぉ~、まだ短い関係だけどぉ、これからもっとそう感じる時が来ると思うなぁ~」と言い、シエルも同じ様に手を取り、「あたしもそう思うわ、あのイブニングにも手を差し伸べようとしたんだもの…きっとソルは心底優しい人だって思うわ!」と声をかけた。
2人からの言葉に、思わず頬が綻ぶソルであった。
その光景を見て、女王も笑顔を浮かべた。
「あ、そういえば聞きたい事あったんです女王様!」
女王が帰りそうな空気感を感じ取った、シエルが声を上げた。
「聞きたい事ですか…?何でしょう、私に答えられる事でしたら…」
「アンジェストロ伝説ってどういう物なんですか?あたし、気になってミランに聞いたんですけど、なんかざっくりしていてよくわからなかったんですよね」
シエルの疑問は、メールも抱いていたようで「それ、メールも知らない~」と話した。
ソルもラパンからざっくりと、妖精界に伝わるものだと聞いて何となく納得した気になっていた。
「アンジェストロ伝説の事ですか…!これは数千年生きている私もいつの間にか民たちに伝わっていた口伝えの詩なのですが…”正邪併せ持ち、妖精と心通わせる光の使者、アンジェストロと名乗り、世界を正しき道に導かん”と、”暗き炎に地上が焼き尽くされた時、妖精と人交わり、清き光を持って闇を祓わん”という2つの言い伝えが妖精界にあるのです」
「そういう詩があるんですね……それにしても、暗き炎の話をしていたのに、なんで闇を祓うのかしら…」
《言われてみればそうミラ》
「口伝えですから、どこかで原典の言い伝えから変わったのかもしれませんね」
女王との話はこれで終わった。
”星の輝き”のゲートは、穏やかな光を発しながら閉じ、元の手のひら大に戻り、変身を解いたラパンの手の上に落ちてきた。
「はぁ……どっと疲れたわね…」
「初変身からぁ、すぐに最終決戦~ゆず帰ってすぐに寝たいかもぉ~」
「そうだね、疲れた…私も正直眠い……色々気になる事もあるけれど、とにかく今は早く帰りたいな…」
「後の事はラパンたちに任せるラパ!ミランとエポンも招集して、ご近所の警戒に努めるラパ!」
「勝手に決めないで欲しいミラ…。まあやるけどミラ…」
「エポンはユズキの部屋で見回りしてるエポぉ~」
「エポンはもう少し周りの事も気にしてほしいラパぁ!!」
6人の少女たちは、ワイワイと賑やかに帰路へ着いた。
4月22日、12時44分。
その日、妖精の世界の平和をかけた戦いが終結を迎えた。
そう、”妖精の世界の平和”は守られたのだ
――――――――同時刻闇の世界、ドーン帝国内エクリプスラボ。
「ほウ……位置情報ツールまで浄化技で壊すカ…。面白そうだなアンジェストロってのハ…まぁいイ、これでもう人間界への侵攻作戦が始められル。最後に笑うのハ、我々の王、ドーン皇だけサァ!」
たった1人の研究所に、高笑いが響く。
人間界への醜悪な興味を抱いて。