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第27話 真名解放!!放て、新たな力!

 イブニングが振り向く前。シエルが作戦の流れをソルたちに伝えた。



 「いい、さっきあたしは次の浄化のタイミングで女王様の力を使おうって言ったけど、そっちじゃなくて、あの機械を壊すのに使う方に変更しましょう」



 「え、何でぇ~?」



 「あの機械がエネルギー供給の起点なら硬くて壊しづらいと思ったから。あたしがもしそういう機械をつくるなら、そうやって壊れにくくするわ」



 「そっか…じゃあ、中々壊れないかもしれないね…だから、女王様の力を……」



 「一度ぉ、普通に攻撃して見てぇ、ダメなら使ってみるって感じかなぁ~」



 「そうね。そうしましょ、あたしがまずやって、女王様の力使ったら戻って来た時に言うわね」



 「う、うん!じゃあ…やろう!!」



 イブニングが振り向き、咆哮をあげ凄まじい勢いで距離を詰めてくる。

 ソルとメールはお互いにスクードを発動させ、シエルが戻ってくるまでの時間を稼ぐ。



 「行ってくるわ!2人とも無理はしないでね!!」



 「シエルもね!ソル・スクード!!」



 「あ、メールこの技初めてだぁ~。メール・スクードぉ!」



 シエルは思い切りジャンプし、真っすぐに天井を目指す。

 ソルはいつもの楕円形の盾を目の前に作り出す。色は半透明の桃色で中心に向かう程膨らんでいる。

 メールの目の前には五角形で半透明の黄色く平らで、身長170センチメートルの、メールの全身を隠すほどの大きさの盾が作り出された。



 ソルは隣のメールの盾を見て、シエルのスクードには光線や衝撃をフェアリニウムに変換するという力があった事を思う。そしてソルの盾には弾性の性質がある。

 そうなると、メールの盾にはいったいどんな性質があるのだろうと、何となく思った。

 だがそれどころじゃなかった。

 突撃してきたイブニングは拳を奮うのではなく、そのまま自身の肉体でタックルをしてきた。

 それはソルが予測する威力を超えており、重い衝撃がソルの腕を襲う。



 「ぐっ……!うぅうっ…!!」



 ソルは足腰に力を入れて、自分の方にイブニングの右半身がスクードの盾の弾性を無視してぶつかっている。

 メールは大丈夫か、とソルはどうにか力を緩めることなく、横をチラッと見て見ると、メールはとても涼しい顔をして盾を維持していた。



 「ど、どうぇえ!?ぐっ…め、メールどうしてそんなに……っ!」



 「なんだかぁ、すっごく楽だよぉ~?」

 《この技衝撃を無効化しているエポぉ~?》

 「なるほどぉ~、もしかして物理的な衝撃を消してくれるのかなぁ~」



 「す、凄い…っ!……ぐぬぅ……っ!」



 今初めて使った事で分かった、メールのスクードの効果は、物理的な衝撃の無効化であった。

 それにより、メールはソルと比べて、明らかに軽々とイブニングを止めている。

 ソルはとても辛そうで、メールは自分の盾をソルの盾に合わせて出してみようかと考えてみる。



 「ソルちゃん~。メールのスクードでぇ、ソルの盾をアシストしようかぁ~」



 「た、多分っ…!前に出すと私の盾がメールの弾いちゃう気がするし、内側にだしても意味ないだろうし…っ…!うんっ…!だ、大丈夫……かなぁ…っ!」



 「そっかぁ~。難しいなぁ~」

 《仕方ないエポぉ~》



 2人が結界の壁へ向かって押してくるイブニングを、天井に意識を向かわせず、自分たちも危なくならない様に押しとどめている時。

 シエルは、ようやく天井に到達していた。



 そしてソルの言う通りの黒く丸い機械があった。そしてそれは結界が生み出された時、イブニングの恐ろしい雄叫びを聞いた時に見た機械と同じものだった。



 「フェアリニウムは少ししか見えないけれど、それとは別のエネルギーが垂れ流しになっているのが見えるわね」



 シエルの特別な瞳の力で、目に力を入れるとフェアリニウムの流れを見る事ができるのだが、機械にはフェアリニウムがわずかに使われているのが見えたものの、殆どは全く別のエネルギー、つまり闇エネルギーが放出されていた。



 《フェアリニウムは何に…使われているミラ…?》

 「機械のつなぎとか?なんか溝に沿って細く伸びているし……ま、とにかく早く怖さなきゃね…!」



 翼を上手に使い、シエルは空中での体勢を整えシエル・グルダンに力を籠める。

 青く輝くフェアリニウムが段々と、グルダンの全体に広がっていく。

 広かったフェアリニウムは次に先端に集まり、グルダンの先は鳥のくちばしの様に鋭く尖った。



 「ふぅー……行くわよ…!」

 《やるミラ!》

 「えぇ!シエル・ベッコ!!!」



 シエルはグルダンを両手で持ち、真っすぐに機械に突進した。

 機械自体の大きさは、イブニングが履いているジーンズのポケットに入るくらいで、さほど大きくはない。故に狙う事が難しかったが、シエルは感覚的に体を動かす事に長けているからか、上手く機械のど真ん中にシエル・ベッコをぶつける事ができた。



 「どうだぁあ!!!」



 鋭く尖ったグルダンの刃は、機械に突き刺さる……事はなく、小規模な爆発から起こったくらいで、傷などついてもいなかった。



 「…予測はしてたけれど、実際に傷もつかないとなると、中々ショックね……!」

 《やっぱ女王様の力を使うしかないミラ!》

 「そうね、使わせてもらうわ…!」



 シエルはそう言うと、グルダンを再び両手で掴み瞳を閉じる。

 すると胸の奥から熱が全身に広がっていく感覚を覚えた。

 その熱こそが女王から貰った力だとシエルにはわかった。

 そして、その力を使うためのキーワードも、その力を発揮する技の名前も頭の中に自然と浮かんできた。



 「さぁ、行くわよ…!真名解放しんめいかいほう!」



 女王の力のキーワード、”真名解放しんめいかいほう”。それを唱えると、一時的に全身にフェアリニウムが溢れ、通常の3倍の威力で技を発動できるようになる。

 シエルの身体にフェアリニウムが溢れ、もとより高い彼女の身体能力を強化した。



 「はぁ……凄いわねこの力……!」

 《身体にどんな反動が来るかわからないミラ。気を付けて使うミラ!》

 「そうだけど、今そんな事考えている暇は無いわ!」



 ミランの心配を一蹴し、シエルはグルダンを握る腕に力が入る。

 全身から溢れるフェアリニウムがグルダンに注ぎ込まれて行く。

 そうして、フェアリニウムはグルダンの側面に纏っていく。その形は鋭い鳥の爪の様だ。

 普段ならフェアリニウムをかぎ爪のようにするグルダンの技は、”シ・エ・ル・・ア・ル・テ・ィ・”であるが、”真名解放しんめいかいほう”状態であれば、それを超えた技へと進化する。



 「はぁあ!!シエル・アルティ―リョ!!!」



 先程自分が攻撃した辺りにグルダンを振り下ろす。傷もつかなかった機械を叩き割るために。

 機械にフェアリニウムのかぎ爪がぶつかった時、凄まじい金属音が響いた。

 地上にいたイブニングも一瞬上を向くほどの大きな音だった。



 「でやあぁああ!!!砕けろぉおお!!!」



 シエルの気合の籠った雄叫びがこだまする。

 そしてグルダンは思い切り振りきった。



 勢いのあまり空中で一回転してしまったシエルだったが、翼を上手く使い、体勢を整える事ができた。



 「どう!!」

 《み、ミラ……》



 かぎ爪をぶつけられた黒い機械は、煙の中にいた。

 激しくフェアリニウムが爆発を起こしたからだ。

 よく目を凝らして、機械を見る。

 そう、機械が見えるのだ。それはつまり破壊できていないという事だった。



 煙が晴れた時、丸く綺麗な曲線を描いていた機械の真ん中部分に、ヒビが入っていた。

 縦に大きく15センチメートル程のヒビがしっかりと入っている。

 シエルはもう一度と、グルダンに力を籠めようとするがフェアリニウムが全く集まらない。



 「そんな…っ!あと2回…いや、1回でも撃てれば……1度きりなの…?」

 《いや…今のアオイの身体が耐えきれないから、アンジェストロがその力をセーブしてるんだと思うミラ…》

 「うぅ……仕方ないわね…、スクードとかの技も使えないけれど、メールと入れ替わんなきゃ…」



 悔しい思いを顔に出しながらも、真下に急降下していった。



 ソルとメールは交互に盾を出しながら、イブニングの猛攻を捌いていた。

 

 「ぐがアぁア!!」



 イブニングがメールに向かって、手を手刀の形にして切っ先をまっすぐメールを突いた。



 風切り音が鳴る中、メールがスクードを出す前にシエルがその間に入り、実体盾シエル・プロテクシオンでその手を弾いた。

 アンジェストロ由来の技ではない、シエル自身の純粋な身体能力で弾き返したのだ。



 「ごめん!壊せなかった!でもヒビは入れたわ!」



 「ヒビ……そんなに硬いのか……」



 「わかったぁ~、じゃあ、メールが行って壊してくるぅ~!」



 イブニングはもう一度突進をしてくる。

 ソルとシエルがその攻撃を受け止める。ソルはソル・スクード、シエルはプロテクシオンでだ。



 激しく火花が散る中、シエルは飛び立つメールに、「女王様の力を使わなきゃ、ヒビも入らなかったから、女王様の力を使うのよ!」と伝えた。

 メールはそのシエルの言葉に頷き、素早く真上に飛び立った。



 「ソル大丈夫?休んだ方がいいんじゃ…」



 シエルがぶっ通しで、イブニングの攻撃を受け止めるソルを心配して声をかける。

 ソルはニッと、笑顔になって答えた。



 「大丈夫だよ!2人が頑張ってくれているんだから、私だってやれる事をやらなきゃ!」



 ソルは自分の盾にイブニングの拳を突っ込んだ瞬間、腕を更に前に突き出して強く弾き飛ばした。



 「ウオオオぉ!うおあぁア!」



 「ふぅ…頑張る…頑張るよ…!」



 「無理しないでね…あたしがカバーするから!」



 ソルとシエルは互いに並び立つ。

 弾き飛ばされていたイブニングが、ソルたちに眼光を光らせ、足で地面が抉れるほどの勢いで突進し、全身を使ったイブイニングの猛攻が始まった。



 一方その頃、天井に到達したメールはシエルが与えたヒビを見つけていた。



 「これかぁ~、結構小さいなぁ~、機械自体がそこまでサイズ大きくないっていうのもあるかもしれないけれどぉ~」

 《女王様の力を使うエポぉ~》

 「勿論~……うん、なるほどぉ」



 メールの頭の中にも女王様の力を使うためのキーワードと技の名前が浮かんだ。

 そして下の2人に負担をかけさせないために、早くやろうと、フェアリニウムで足場を作り、黄色の輝く五角形の板の上に立つ。



 「はぁ~!”真名解放しんめいかいほう”ぅ~!」



 メールの胸の奥から発した熱が全身に広がり、フェアリニウムが放出される。

 そしてあふれ出たフェアリニウムは、メールの左手のガントレットに集束していく。

 黄色の光が段々と濃くなっていき、黄金の様に輝き始める。



 「…やるならぁ、同じ場所ぉ…ヒビのとこだよねぇ~」

 《あぁ~そうすればぁ、壊れやすいエポぉ~。ユズキ頭いいエポぉ~》

 「えへへぇ~……ふぅ…やあぁあ!メール・ティストルツィオーネぇ!!」



 メールが足に力を籠め力強く機械へ向かってジャンプし、大きく振りかぶって左手の光り輝くガントレットを機械を殴った。

 そしてシエルの時と同じように、爆発が起こる。

 素早くその場から離れた、メールは爆発に巻き込まれることは無く、機械が壊れたかを確認していた。



 だが煙が晴れる前に、メールはこれは壊れていないと気づいた。

 それは、周囲の黒の結界に何も変化が起きていないからだ。

 そして地上で戦っているイブニングの雄叫びも、まだ聞こえている。

 つまり機械は壊されておらず、自分はヒビを大きくしただけだと、メールは判断した。

 煙が晴れ、機械が視界に入る。そして、メールの”真名解放”で広げた機械のヒビは、20センチメートルほどで、シエルの与えてものから5センチ程度大きく出来ただけだった。

 そしてシエル同様、2回目の技は身体がアンジェストロの力がセーブしたからか、フェアリニウムを集める事ができず、発動できなかった。



 「こりゃぁ~ダメだねぇ…メールが壊さなきゃだったのにぃ……どうすればぁ…」

 《ただのパンチじゃダメエポぉ~?》

 「多分無理だと思うけれどぉ~やれるだけやってみるかぁ~…ふん!」



 メールはフェアリニウムが籠っていない、ただのガントレットでパンチを繰り出す。

 黒い機械に当たる度に、金属同士の甲高い衝突音が響く。

 何度も何度も、ヒビを殴り続ける。

 しかし、少し破片は散るものの、既に入っているヒビを更に大きくする事はできそうには無かった。

 メールが一度攻撃を止めようと、機械から離れた時地上からシエルの大きな声が響く。



 「メールっ!避けてぇっ!!」



 「ほえぇ?」



 メールが声の方に振り向くと、地上からイブニングが光線を放っていた。

 光線は真っすぐ、メールの方へ向かっており、今すぐに避けなくては直撃し大怪我は免れないだろう。



 「これはぁ~まっずいねぇ…!」

 《あれエポぉ~、あのぉ……め、め、メランツァーナエポぉ~!》

 「それだぁ、メール・メランツァーナぁ~!」 



 エポンのアドバイスで、メランツァーナを発動しようとする。

 しかし、フェアリニウムは集まらない。

 メールの頭から、女王の力による反動の事が抜けていたのだった。



 「しまっ…」



 メールがそれを思い出した時にはもう目の前が黒い光線で満たされてしまっていた。

 もう避けるタイミングは逃してしまった。



 その時、メールの目の前に、半透明の桃色の楕円形のまっ平らな壁が出現する。

 瞬きした瞬間に生まれたその壁は、イブニングの光線からメールを守る。

 しかし、強度が足りていないためか、どんどんヒビが入っていく。



 「これってぇ…」



 「メール!今のうちに、当たらないところへ!」



 いつの間にか近くに来ていたソルが、メールの腕を掴み、イブニングの攻撃の射線上から離れさせた。

 ソルは、イブニングがメールに攻撃しようとした時に、自分体への攻撃が緩んだため、その場をシエルに任せてメールを助けるべく飛んできたのだった。



 「そ、ソルちゃん!ありがとうぅ~…!」



 「間に合って良かった…!」



 ソルが作った壁は光線を押さえきれず大きな音と共に砕け散り、イブニングの光線は結界の天井に当たり大きな爆発を起こした。



 「なんで急にこっちに攻撃をぉ~?」



 「多分メールが女王様の攻撃をした時、すっごい光ってたから…かな。あとパンチの時の音とか。そのたびにイブニングは天井の方を見てたから…」



 「そういうことかぁ~……しまったなぁ…」



 「とにかく、次は私が機械に攻撃するから、メールはシエルの方に行ってて」



 「わか……えぇ~!?」



 ソルの言葉に、メールは状況を無視して驚いてしまった。

 まさかソルが自分から攻撃をするというと思っていなかったからだ。

 実は中のラパンも驚いていた。



 《だ、大丈夫ラパ…?》



 「大丈夫なのぉ……?」



 内部のラパンと、メールが同じ事を言うくらい、動揺していた。

 だがソルは、手足が震えているのを隠そうとせず、頷いた。



 「怖い…怖いけど、みんなが頑張っているのに、私だけ何もしないなんて……我慢できない…。だから、私……やるよ。怖くても震えていても、私にだって、女王様の力があるんだから……!」



 「ソルちゃん……わかったぁ、わかったけどぉ…無理しないでねぇ…」



 「えへへ、シエルからも言われちゃったよ。うん、無理は絶対しない!」



 メールはそれでも心配そうな顔を見せつつ、地上へ向かった。

 ソルは速度を上げて降りていくメールの背中から天井へ視線を移し、機械を見る。

 機械には20センチメートル程度のヒビがあり、ソルはそれが2人の付けた傷であると理解した。

 だが機械の側面に、新しく出来た傷があった。

 ソルは不思議に思いそれを見つめるが、もしかしたらシエルが1度目の攻撃をしたところかもしれないと思い、自分も攻撃をする事にして体勢を整えた。



 「えっと…確か女王様の力を使うって意識するんだよね……」

 《不安ラパ……》



 ラパンの思いが当たったのか、ソルはどれだけ集中しても、胸の奥に熱を感じる事もなく、頭の中にキーワードも技名も浮かんでくることは無かった。

 それはソルを大いに困惑させた。



 「な、なんで…!?どうして、何も浮かんでこないの…?いつもみたいに、前から知ってたみたいに、頭の中に言葉が浮かんでこない…!なんで…!!私だって、女王様から、力を授かっていたはずなのに……」

 《もしかして、力は必要な時にしか使えないってことラパ…?》

 「でも今以上に必要な時って……なに…?」

 《それは……わからないラパ……》



 ソルは、下から聞こえる激しい戦闘音に更に焦る。



 「どうしよう……も、もう私の技で攻撃するしか…」

 《でも攻撃技なんて…》



 攻撃技なんてソルには無い。そうラパンが言おうとした時、ソルの頭の中に1つの言葉が浮かぶ。

 それは、ソルの攻撃技だった。女王の力は応えなかったが、アンジェストロの力は、ソルに攻撃の手段を与えたのだ。



 《そ、そんなっ……カオル!》



 攻撃技を意識した時、ソルの腹の底からあの日、初めて変身した日と同じような黒くドロドロとした感情が、口から溢れ出しそうになる。

 慌てて手で口を押えるが、その感情は止まる事なく溢れ出す。



 《カオル…ダメラパ!心が耐えきれないラパ!》



 だが、ソルはラパンの制止を無視して体にフェアリニウムを溜め始める。

 空気中から澄んだ青色の光が集まっていく。そして光の色が桃色に変化していく。



 「ぐっ……はぁっ……!」

 《うぅ……カオル…カオルの心が…軋んでるラパ…攻撃するって意識しただけなのに…もう……》



 まだ口を押さえている。指の隙間や口の端から、押さえきれなかったモノがボトボトと滴り落ちる。

 胃から逆流した吐瀉物だ。

 もはや感情の様な無機物ではなく、物質的に暴力への忌避感が溢れ出してしまっていた。

 ラパンもその感情を直に感じ取っているため、泣きそうな気持ちになる。

 合体しているため泣けないが。



 「うぅ…うぷ……くっ……!はぁ…!や、やらなきゃあ……!」

 《カオ…》

 「そ、そ、そそ、ソル……ソルっ…うっぷ……ソル!・スパーダ!!」



 溢れそうになるものをどうにか奥に押し止め、フェアリニウムを足に纏わせ刃と変化させ、黒い機械のヒビを叩き切る。



 「やぁああぁああ!!!」



 初めてソルが自分から行った攻撃は、足に纏った桃色の光が赤く炎の様に煌きを放った。

 そのソルにとって初めての光の変化は、彼女自身を困惑させたが意識を機械に戻して、蹴る足に力をより籠める。

 力を入れれば入れる程、奥からまた嫌なモノが出てきそうになるが、頑張って我慢する。耐える。仲間のために、自分ができる事をやりきるために。



 思い切りオーバーヘッドの体勢で蹴り抜いたため、その動きに慣れていなかったソルは空中をグルグルと回ってしまう。

 ラパンがソルの中のフェアリニウムを捜査して、体勢を整える。

 

 「はぁ……はぁ…あ、ありがとう…ラパン……」

 《大丈夫ラパ、これくらいしかできなかったラパ。…それより、傷は!機械は!》



 ラパンに聞かれた通り、ソルは機械を周囲を確認する。

 どうやら、機械は壊れていなかったようで、結界に全く変化は無かった。



「やっぱりっ…!……女王様の力を使わなきゃダメなの……?」 



 技を使い、機械を蹴った事によってたった煙が段々と晴れていく。

 ――――――――機械の傷は更に大きくなっていた。



 「…!これって…」

 《やったラパ…やったラパ!壊せてないけど、傷を広げられたラパ!》

 「も、もう一度…!もう一回攻撃できれば……うぷ……ま、マズい…」

 《言う通りだと思うラパ…でも、無理はしすぎないでラパ…》

 「わ、わかってるって…うっ…!」



 すると地上から、光が自分の目の前を過ぎ去った。

 黒い光だ。



 「これって…」

 《イブニングの攻撃…ラパ!ラパンたちの攻撃がメールの時みたいにイブニングに反応させちゃったラパ!》



 ソルが下を見ると、イブニングによって地面に押さえつけられているシエルとメールがいた。

 イブニングは2人を太く長く強い腕で押さえつけながら、ソルの方へ口から黒い光線で攻撃をしていたのだった。



 「2人とも!!」

 《まずいラパ…イブニングは完全にラパンたちを標的にしているラパ…》

 「くぅ…!」



 イブニングはメールの時とは違って、長く放出するのではなく、通常時に行っていた光弾に似た攻撃方法で、ソルを狙っていた。



 「グオオおぁああア!!!」



 翼を上手く使って、光弾を避けるソルだが、地上に降りて2人を助けるようなタイミングが掴めなかった。



 「ど、どうしよう…」

 《このまま下がっていくと、天井にぶつかっちゃうラパ!》

 「し、しまった…!」



 元々機械を壊すために、天井に近い位置にいたため、光弾を避ける事に意識が言ってしまい、無意識に後ろに下がりながら避けていたのだ。

 いつの間にか自分の右手側に、黒く機械があった。



 ふとソルは光弾の雨を避けながら機械を見る。

 そして、その側面にある焦げ跡に意識が行く。ソルは当初これはシエルの攻撃の後だと考えていた。

 だが、今このイブニングの攻撃を避けながらとある仮説がソルの頭に思い浮かんだ。



 試しに、手の平にソル・メランツァーナを発動し、光弾を1つ機械に向けて軌道を変えてみる。

 すると、焦げ跡の所にヒビが入った。



 「や、やっぱり…この機械、イブニングの攻撃でも傷がつく。…壊せる!」

 《勝手に闇エネルギーを出す機械だから、イブニングの攻撃は効かないって思っちゃってたラパ…》



 2人はイブニングの攻撃を利用する事にした。

 そうすれば、ソルの身体的、精神的な負担は少ないからだ。



 雨の様に降る光弾をメランツァーナで、何度も何度も弾いていく。

 流石に正確にぶつける事は難しく、外してしまう事が殆どだ。



 しかし、ソルには強い使命感が生まれていた。それは、1人だけ女王の力を使えなかったという、自分への失望、そして仲間への罪悪感からくるものだ。

 事実、今仲間はイブニングによって押さえつけられてしまっている。少しだけだが、苦しそうな声も聞こえる。



 (だから、私がやらなきゃ…使えるものなんでも使って…!この結界を壊す!)



 すると1つの光弾が、機械ではなくイブニングの方に飛んで行った。

 そしてイブニングの顔のすぐ横を通り、地面に当たって小規模な爆発を起こした。



 「グォぉあ…るぅあかぁが!ぞぞぼゾゾルゥ!ぁあああ!」



 怒りのあまり発したのは、人の言葉ではなかった。

 ソルはその声に驚いたが、頭の中は驚くほど冷静だった。

 この怒りで2人を離すか、もしくはさらに大きな攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

 その時こそ、メランツァーナで機械にいなすのだ!と作戦を立てた。



 そうと決まれば、ソルはあえて煽るように天井付近をグルグルと旋回した。

 こちらに攻撃するように、こちらに意識を向けるように。



 (さぁ、さぁこい!)

 《上手くいけばいいラパけど…》



 ラパンは心配していたが、今のイブニングは、本能に従って動いていたためソルの挑発にそのまま乗ってくれた。

 だが、腕の下敷きになっているシエルたちを離す事は無い。



 イブニングは、大口を開けそこに大量の闇エネルギーを集束させる。

 戦闘開始時に、シエルに向かって放った技だ。

 つまりそれは、メランツァーナでいなせる技か怪しいという事だ。

 何でもかんでもいなせる技とはいえ、その威力にも限度はある。

 しかし、ソルはやるしかないとメランツァーナを手のひらに発動させた。

 タイミングを予測なんてできない。事前に決めた角度でいなすのだ。そう心に決めていた。



 そう考えた数秒後、イブニングから黒い閃光が放たれた。まっすぐとそれはソルに向かってきた。

 ソルは堂々とそれをいなし、角度を変える。



 天井に当たる大きな音が鳴る。まだ光線は放たれ続けている。イブニングはまだ倒したと思っていないのだ。

 そしてソルはというと、状況が切迫し始めた。

 大きな理由は1つ。角度を間違えていたため、いなした先に機械がなく、天井に光線を当ててしまっていたのだ。



 「やっちゃったぁ!どうしよう!ぐぅう…押そうにも、滑らせる技だから、角度変えるとか、そういうのができないし…!」

 《どうにもできないラパ…!》

 (考えろ…!考えろ…!何かあるはず…私にできる事…まだ、何か…っ!)



 光線はジワジワと、ソルの方に射線が移動してきている。

 地上でイブニングが、ソルに当たっていない事をわかっているため頭を動かし、ソルによりダメージを与えられる位置に変えようとしているのだ。



 ソルもそれをわかったので、どうにか移動しようと翼を動かし続けるも、凄まじい勢いで放たれている光線の圧力で、やはり動くことができない。



 「このままじゃ…メランツァーナごとやられちゃう…!」

 《あ、スクードで跳ね返せないラパ?》

 「やってみたいけど…っ!……フェアリニウムを集められない…!メランツァーナを維持するので一杯一杯で…!」

 《ラパンが集めるラパ!すぐに集めるラパよ!》

 「ほ、ホントっ…!あ、ありがとう…っ!」



 すぐさまラパンはソルの身体の中にあるフェアリニウムをラパンの目の前に集め始める。メランツァーナに使っている力を取らない様に慎重に集める。

 しかし集める速度より、イブニングの光線を動かす方が早い。

 チリチリと、ソルの赤色のジャケットが焼けていく。

 ソルは、光線の動きに合わせて、ひじの辺りまでフェアリニウムの膜を広げる。



 瞬間、イブニングの光線の動きが変わった。先ほどまでソル側に移動してメランツァーナのいなす力がはたらかない位置へ動いていたのだが、唐突にその逆方向へ動いた。

 それはソルが動かしたかった方向だった。



 「急に…っ!どうしてっ……!」

 《み、見るラパ!2人が…!》



 ラパンに促されて、ソルは地上に視線をやる。

 地上ではイブニングの腕の下敷きになっていた、シエルとメールが腕を持ち上げていたのだ。

 それによって身体が傾き、イブニングの頭の位置も変わり、光線の射線も戻って来たのだった。



 「そ、ソルーっ!ごめんっ!お願いっ!」



 「ソルちゃん~!今だよぉ~!」



 2人は何とか立ち上がり、端的にソルに機械の破壊を託した。



 「皆…!わ、わかった…私がやるんだ……!ラパン!」

 《フェアリニウム!溜まったラパ!》

 「よし……角度を考えて……!」



 イブニングがバランスを崩し、光線が一瞬ソルから離れた。

 光線はグラつきながら再びソルに飛んで来る。

 ソルはその離れた一瞬をつき、一気に下に降下する。

 そしてイブニングの頭部と同じ高さで滞空し、光線が真横に来るようにした。

 ソルを視認したイブニングは、上に向かって放っていた光線を口を閉じる事で、圧縮し視線の高さにいるソルへ放った。



 「ソル・スクード!!」

 《弾けラパ!》



 ソルは光線の下に潜り込み、光線をしたから押し上げるような形で、ソル・スクードで光線を弾いたのだ。



 (私のスクードは直角で弾く力!複雑な調整はできないけれど、大雑把に真上なら!)



 ソル・スクードによって弾かれた光線は、綺麗な直角で、真っすぐに、機械へ向かって行き、凄まじい熱量で天井を焼いた。



 光線が天井へ到達して数秒、イブニングは苦しみ出して、光線を中断。



 黒の結界は天井の大規模な爆発と共に霧散していった。

 太陽の光がアンジェストロたちに降り注ぐ。

 対照的に恐ろしい雄叫びを上げるイブニングは河川敷に転げ落ちて、日陰に入っていった。



 「や、やった…はぁ…はぁ…」



 遂に結界を破壊したソルたち。満身創痍な3人だが、まだ戦いは終わっていない。

 そう気合いを入れ、立ち上がりイブニングを見下ろす形で、河川敷の下を見る。

 イブニングとの決着も目前に迫っていた。

しおり