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「泳斗くん、そこは腕だよ。頭はこっち」

服を着させてあげると泳斗くんは大人しくわたしの膝に座った。

「泳斗くん、君に家族はいるかい?」

財前さんの問いに、泳斗くんは首を傾げた。

「かぞく・・・?」

「ああ、君と同じような者は近くにいるかい?」

泳斗くんは首を横に振った。

「そうか。君は公園の池に居たと聞いているが、ずっとそこにいたのかい?」

泳斗くんはコクンと頷いた。

「自分が何故・・・いつからそこにいたのか、わかるかな?」

泳斗くんは、黙り込んだ。上から表情を覗き込むが、返答に困っているように見える。

「ボクは、ずっとあそこにいるよ」

財前さんは泳斗くんを見つめ、フッと微笑んだ。

「そうか。わかった」そして、視線が空舞さんに向けられる。「空舞ちゃん、君に関しては、とくに言う事もないかな。君達が聡明なのはよく知っているよ」

「君達?」言ったのはわたしで、肩にいる空舞さんは何も喋らない。

「ああ、僕の周りにもいるんだよ。空舞ちゃんと同じ姿をしたものが」

「そっ、それは、カ、カラス・・・ですか?」

財前さんはクスリと笑い、頷いた。

「そうだね」

「・・・やっぱり、喋るんですか」

「もちろん。みんなとても賢く、知的で聡明だよ」

それは妙に納得出来た。

「今度君にも紹介するよ」

「いえ、結構よ。わたしは昔から単独で動いていたから。これからも変える気はないわ」

財前さんはフッと笑った。

「そうか。まあ、今は1人じゃないようだしね」

空舞さんに笑み向けたが、何をニヤついているのと言われ、前に向き直った。

「財前さん、この子どう思う?」

言ったのは早坂さんだ。そのこの子は、木のテーブルの木目を興味深そうに指でなぞっている。

「そうだね。おそらくこの子は、君達の思っている通り・・・"僕と同じ"だろう」

「・・・同じ?」

「お前、わかってたんじゃないのか?」

「え?何を、ですか?」

瀬野さんが怪訝な顔で早坂さんを見た。

「本能ではね。雪音ちゃん、泳斗くんは半分人間なのよ」

「・・・・・・えっ!!」

「おい、全然わかってないぞ」

「いいのよ。雪音ちゃんは本能が働くけど、それを当たり前と捉えないから。それがあなたの良いところよ」

わたしに向ける早坂さんの笑顔は、フォローではなく本心だとわかった。それが情けないようで、でも嬉しくて、どんな顔をしていいかわからない。



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