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「君が、泳斗くんだね」
「・・・あっ、そうです。泳斗くん、この人は財前さんだよ。財前 龍慈郎さん」
「リュージロー!」泳斗くんが財前さんを指さした。
「りゅうじろうさん!だよ」
財前さんはハハッと笑った。
「構わないよ。そして君の肩にいるのが、空舞ちゃんだね」
「そうです!空舞さん、この人が財前さんです」
「今聞いたわよ。落ち着きなさい」
──いや、その通りで。なんでわたしだけテンパっているんだろう。
「2人から話は聞いてるよ。まず、座りなさい」
財前さんの隣に瀬野さん。財前さんの向かいにわたし。その隣に早坂さん。これも、毎度同じだ。
膝に乗せた泳斗くんは大きな木のテーブルが気に入ったのか、撫でるように触り始めた。
財前さんは泳斗くんの手をジッと見つめた。
「ふむ。泳斗くん、ここに立てるかい?」
財前さんがテーブルにチョンと触れる。
「うん!」泳斗くんはわたしの膝を踏み台にして、ピョンとテーブルに上がった。
財前さんは顎をさすりながら泳斗くんをまじまじと観察している。
「その服、脱げるかな?」
「えっ!いいの!?」
泳斗くんは返事を待たずに着ていたシャツに手をかけた。着慣れていないせいか、少し手間取っていたが、ズボンはすんなりと脱いでみせた。
「ほう・・・これは、興味深い」
財前さんの視線は泳斗くんのヘソから下へ注がれている。
「でしょ?あたしも最初見た時、驚いたわ。こんな立派な物がついた妖怪、見た事ないわ」
「立派な物つーか、人間とまったく同じ物、だろ」
「あら、アンタよりは立派なんじゃない?」
「お前な・・・」
わたしの視線に気づいた早坂さんがハッとした。
「やだ!ゴメンなさい、雪音ちゃんには刺激が強かったわね。今のは聞かなかったことにして」
とくに反論はしなかったが、この人はわたしを何歳だと思っているんだろう。そりゃあ、春香には今時の中学生のほうがわたしより大人だと言われるけど。
「ありがとう。もう着てもいいよ」
「ボク、着たくない!」
「うーん、でも着たほうがいいかな」
泳斗くんは財前さんと目を合わせると、素直に言う事を聞いた。わずかだが、一瞬ピリッとした空気を感じた。
財前さんには有無を言わせぬ何かがある。泳斗くんもそれを感じるんだろう。