バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

11


「遊里の言う通りだね。驚いてはいたが、君はもう理解してしているだろう?」

「・・・はい。そう言われて、なんていうか、カチッとハマった気がします」

財前さんはハハッと笑った。

「それでいい。君のようにあらゆる視点から物事を考えられる人間は必要なんだ。そうじゃなくても、僕たちはこの類の事には固定概念が強くなってしまうからね」

財前さんが節目がちに2人を見る目には、わたしが知らない何かが映っている。
早坂さんは俯き微笑んでいるけど、その目は今ではなく、遠くにある別のモノを見ている。そう感じた。

わたしの手は、自然と早坂さんの横顔に伸びていた。
早坂さんがピクッと反応してわたしを見る。

「・・・あ、ごめんなさい」

頬から離れたわたしの手を早坂さんが素早く掴んだ。

「どうしたの?」

「・・・いえ、なんか、滅入ってるように見えて・・・勝手に手が伸びてました。ごめんなさい」

早坂さんは虚ろな表情でわたしを見つめた。

「もう・・・可愛いわねぇ」

「え」

「謝らなくていいのに。もっと触れていいのよ?」そう言い、掴んだわたしの手で自分の頬をスリスリする。

「ちょ・・・」

「あたしも触りたくなってきたわ」

「えっ」

今度は自分の両手でわたしの頬を挟み、マッサージするように揉み出した。

「ちょっ、早坂さん!やめっ・・・」

「あ〜、モチモチして気持ちーわ」

「やめっ、早坂さんッ」

「ギャッ!」

早坂さんの悲鳴の理由は、空舞さんがクチバシで早坂さんの手を突いたからだ。

「また始まったわね」

「お前らな、そーゆうのは2人の時にやれ」

瀬野さんは心底呆れている。さっきの車の件もあり、恥ずかしくなって顔を伏せた。

「ゴメンゴメン、ついね。そう、それで ──この子をどうするかって話だけど・・・」

「どうするか?」反応せざるを得なかった。早坂さんの声のトーンから良い事ではないのがわかる。「まさか・・・」

「いや、その必要はないだろう」

財前さんが即答してくれて、安堵した。

「この子は自分の事を何もわかっていないようだ。人間に害を与えるとも考えにくい。これはあくまで僕の臆測だが・・・おそらく母親は人間。言葉を話せるのも母親から覚えたのだろう」

「・・・でも、じゃあ、その母親は・・・」

「僕たちのように、"見える"人間なのは間違いないが、どういう経緯(いきさつ)でこの子が1人、その場所に居たかはわからない」


しおり