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「遊里の言う通りだね。驚いてはいたが、君はもう理解してしているだろう?」
「・・・はい。そう言われて、なんていうか、カチッとハマった気がします」
財前さんはハハッと笑った。
「それでいい。君のようにあらゆる視点から物事を考えられる人間は必要なんだ。そうじゃなくても、僕たちはこの類の事には固定概念が強くなってしまうからね」
財前さんが節目がちに2人を見る目には、わたしが知らない何かが映っている。
早坂さんは俯き微笑んでいるけど、その目は今ではなく、遠くにある別のモノを見ている。そう感じた。
わたしの手は、自然と早坂さんの横顔に伸びていた。
早坂さんがピクッと反応してわたしを見る。
「・・・あ、ごめんなさい」
頬から離れたわたしの手を早坂さんが素早く掴んだ。
「どうしたの?」
「・・・いえ、なんか、滅入ってるように見えて・・・勝手に手が伸びてました。ごめんなさい」
早坂さんは虚ろな表情でわたしを見つめた。
「もう・・・可愛いわねぇ」
「え」
「謝らなくていいのに。もっと触れていいのよ?」そう言い、掴んだわたしの手で自分の頬をスリスリする。
「ちょ・・・」
「あたしも触りたくなってきたわ」
「えっ」
今度は自分の両手でわたしの頬を挟み、マッサージするように揉み出した。
「ちょっ、早坂さん!やめっ・・・」
「あ〜、モチモチして気持ちーわ」
「やめっ、早坂さんッ」
「ギャッ!」
早坂さんの悲鳴の理由は、空舞さんがクチバシで早坂さんの手を突いたからだ。
「また始まったわね」
「お前らな、そーゆうのは2人の時にやれ」
瀬野さんは心底呆れている。さっきの車の件もあり、恥ずかしくなって顔を伏せた。
「ゴメンゴメン、ついね。そう、それで ──この子をどうするかって話だけど・・・」
「どうするか?」反応せざるを得なかった。早坂さんの声のトーンから良い事ではないのがわかる。「まさか・・・」
「いや、その必要はないだろう」
財前さんが即答してくれて、安堵した。
「この子は自分の事を何もわかっていないようだ。人間に害を与えるとも考えにくい。これはあくまで僕の臆測だが・・・おそらく母親は人間。言葉を話せるのも母親から覚えたのだろう」
「・・・でも、じゃあ、その母親は・・・」
「僕たちのように、"見える"人間なのは間違いないが、どういう経緯(いきさつ)でこの子が1人、その場所に居たかはわからない」