レティシア入隊2
レティシアは素早く水魔法を発動させた。レティシアの剣が水の螺旋をまとう。
レティシアは見つけたリカオンのすきに、水の剣を打ち込んだ。手練の剣士であるリカオンでも、水の剣に当たればケガをしてしまうかもしれない。
もしリカオンがケガをしても、チップに治癒魔法をしてもらえば助かるだろう。
レティシアの放った水の流れは、リカオンめがけて襲いかかった。リカオンは慌てる事もなく剣を構えた。
水の流れがリカオンに届く直前、リカオンによって水の流れは斬られてしまった。
「そんな、」
レティシアの最大の武器である水の剣が、リカオンによって簡単に防がれてしまった。
このままでは入隊の話も無効になってしまうかもしれない。レティシアが呆然と立ち尽くしていると、マティアスが手を叩いた。
「素晴らしい剣技だ、レティシア。リカオンも異論はないな」
リカオンは手に持った剣を消すと、フウッとため息をついた。
「お嬢ちゃん、いやレティシア。みくびってすまなかった。お前はザイン王国軍の仲間だ」
「!。ありがとうございます!バルべ男爵さま!」
「リカオンでいいよ」
「はい、リカオンさま」
リカオンは微笑んでレティシアの背中をポンと叩いた。きっと労ってくれたのだろう。これまでの努力を認められたような気持ちになった。
ふとマティアスに目を向けると、ふてくされたような顔をしていた。レティシアは彼の不満の原因がわからず首を傾げた。
結局レティシアは軍に入隊は認められたものの、兵士たちの合同訓練には参加せず、時間の空いたリカオンと手合わせするだけにとどまった。
次に城に呼ばれた際、マティアスから馬を選ぶようにいわれた。ザイン王国軍では貴族は馬に乗る事を許可される。レティシアは自身の馬を持っていなかったからだ。
厩舎には数頭の馬がいた。レティシアはチップを呼び出して質問した。
「ねぇ、チップ。私と仲良くしてくれる子はいるかしら?」
『もちろんだよ。皆、優しいレティシアに好意を持っているよ』
チップは背中の小さな翼でパタパタ飛んで、一頭一頭馬に話しかけた。霊獣のチップは動物とも会話ができるのだ。
『レティシア、こっちに来て?この子がレティシアを乗せたいって』
その馬は美しい白馬の牝馬だった。
「わぁ、綺麗な馬!チップ、名前はなんて言うの?」
『ティアラだって』
「まぁ、ティアラ。美しい貴女にぴったりね?よろしくね、ティアラ」
ティアラはヒヒンといなないた。
レティシアとチップが厩舎を出るとマティアスが待っていた。
「これは王子殿下。ごあいさつ申し上げます」
「前置きはいい。馬は決まったのか?」
「はい。ティアラという名の馬を頂戴いたします」
「?。何故馬の名がわかるのだ?」
「はい、霊獣のチップに教わりました」
チップはレティシアの肩の上で得意そうに胸を張った。
「レティシア、馬は好きか?」
「?。はい」
「ならばついて来い」
マティアスは出し抜けに発言すると、レティシアの返事も聞かずにスタスタ歩き出した。レティシアは仕方なくマティアスの後に続いた。
マティアスはレティシアが馬を選んだ厩舎とは別の厩舎に入っていった。そこにも馬がたくさんいた。
「マックス!いい子にしていたか?」
マティアスは美しい黒毛の悍馬に駆け寄った。マックスと呼ばれた馬は甘えるようにヒヒンと鳴いた。
「この馬は?」
「うむ。俺の愛馬、マックスだ」
レティシアの質問にマティアスは得意げに答えた。レティシアはマックスに近づき、彼の真っ暗な美しい瞳を覗き込んだ。
「綺麗な馬ですね」
「当たり前だ!俺が世話をしているんだからな!」
「王子殿下みずからですか?」
「ああ。戦に出るのに自身の馬の管理を怠るわけにはいかんからな」
「はぁ、そうなんですね」
「・・・。嘘だ、ただ馬が好きなだけだ」
マティアスは気恥ずかしいのか少し顔を赤らめた。レティシアは小さく笑った。
「ついでに言うと、この赤毛の馬はイグニート。バカリカオンの愛馬だ。主人はひねくれ者だがイグニートは良い子だ」
マティアスは本当に馬が好きなようで、イグニートに頬ずりをした。マックスが嫉妬したのか、ブルルと鳴く。マティアスはすぐさま自身の愛馬の元に戻りご機嫌を取った。
マティアスと別れた後、レティシアは関心したようにチップに言った。
「マティアス王子は馬がお好きなのね、意外だったわ」
もっと冷たい人間なのかと思っていた。それまで黙っていたチップが口を開いた。
『レティシア。バカ王子の奴、馬の言葉をわかっていたぞ』
「えっ?人間に馬の言葉がわかるの?」
『僕は最初、馬好きだから馬の気持ちを理解しているのかと思った。だけど、バカ王子と馬たちは会話してた』
チップの突然の言葉に、レティシアは黙ってしまった。