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レティシア入隊

「女の子を軍にいれるなんて!俺は反対だね!」

 レティシアはマティアス王子の執務室で直立のまま固まった。

 マティアスに呼ばれたのだ、今後のレティシアについての事で。レティシアがいくら霊獣の力を操る召喚士であっても、女を軍隊にそのまま放り込むわけにはいかないからと。

 レティシアの入隊を許可した事で、マティアス王子の側近であるリカオン・バルべ男爵が大反対しているのだ。

 マティアスの説明では、リカオンは男爵ではあるが、父親はバルべ公爵で、いずれリカオンが後を継ぎ公爵になるらしい。

 リカオンは燃えるような赤い髪の野生味のあるハンサムだった。リカオンはマティアスと気安い間柄らしく口調はますます砕けていく。

「何考えてんだよ!バカマティアス!」
「バカを付けるな!王子と呼べ!」
「へぇへぇ、バカ王子さま」
「バカバカ言うな!バカって言う奴がバカなんだぞ!」
「へへん。マティアス今自分でバカって言ったぁ。マティアス自分がバカだって認めたぁ」
「うっさい!レティシアの前だぞ!黙れ!」
「へへん。可愛い女の子の前だからってカッコつけようとして!ダサ!」
「リカオン!貴様!表出ろ!」

 レティシアは後ろに組んだ手の甲を必死でつねっていたが、笑いをこらえるのも限界だった。

「恐れながらマティアス王子殿下。バルべ男爵さまはわたくしの力量に疑問を持っていらっしゃるご様子。バルべ男爵さまと手合わせする機会をお与えいただけませんでしょうか?」
「ええ?お嬢ちゃんと俺が戦うの?無理だろ」

 軽んじるリカオンに対して、マティアスはレティシアの顔をジッと見つめてから許可を出した。


 レティシアとリカオンは城の訓練所にいた。マティアスはレティシアたちから離れた場所に立っていた。

 レティシアが師匠であるヴィヴィアンの剣をさやから抜いて構えると、リカオンは大きく目を見開いた。遅れてレティシアではなく、レティシアの剣に驚いているのだという事に気がついた。

 レティシアはリカオンの驚きの原因がわからないまま口を開いた。

「バルべ男爵さま。剣をお持ちではないではありませんか。いくら私が女だからといってみくびりすぎではありませんか?」
「そいつはすまねぇな」

 リカオンは右手を軽く振る動作をした。手には大振りの剣が握られていた。リカオンはヴィヴィアンと同じ土鉱物魔法が使えるのだ。

 レティシアは剣を構えなおし、リカオンに向かって走った。リカオンは剣を上段に構えた。

 レティシアはリカオンの剣の太刀筋を予想し、右に飛んで剣を水平に打ち込んだ。リカオンは素早く剣の向きを変えてレティシアの剣を受ける。

 キィン、と剣同士の打ち合う鋭い音が響く。

 リカオンの一撃は鉛のように重かった。この力をまともに受ければレティシアは吹っ飛ばされてします。

 レティシアはヴィヴィアンの教え通り、リカオンの剣の方向をずらす。リカオンの剣はスルリと横にずれた。レティシアはすかさずリカオンに剣を打ち込んだ。

 度重なる剣の打ち合いの末、レティシアはわずかなすきを見つけた。

 リカオンとレティシアの剣の技術の差は天と地ほども開いている。リカオンはレティシアにケガをさせないように戦ってくれているだけなのだ。

 レティシアはリカオンを納得させるだけの力を示さなければいけないのだ。

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