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睡眠不足

 私たちは海岸に向かって歩き始めました。
ここはさっきの町と雰囲気が違います。

やはり海が近いということがあり、港町って感じです。
私の語彙力ではこれ以上の説明は不可能です。

なんていうか、町中のあちらこちらに海を連想させるものがあるというか、そんな感じです。
すれ違う町の人たちも、なんていうか、アレです。
海の人って感じの人たちです。

あー……。
なんだかいつにも増して語彙力が死んでいますね。
どうしたのでしょうか。

「アルマ? 顔が死んでるけど大丈夫?」
バウワウが訊いてきました。

「あなたほど酷くはないわよ」
「何を。僕のこのキュートなお顔にケチをつけるというのかい?」

「眠そうなアホ面しといて、何を馬鹿な戯言をのたまってやがるのかしら。……眠そう? あ、そうだ。眠いのか」

そういえば、昨晩は一晩中歩いていたので一睡もしていません。
こりゃあ語彙力が死ぬわけですね。

バウワウは夜行性なので夜更かしなんて余裕なのかもしれませんが、私は夜行性じゃないのでアレです。

良い子の私は夜更かしの経験が皆無で、このレベルの眠気に対抗する手段を持ち合わせていないのです。

もうなんか、やべぇかもしれません。
眠いことを意識し始めたら、眠気が三割くらい増しました。

さっきから道行く人が私のことをジロジロと見てくるのは、きっと私の目つきが悪いからです。

私は目が悪いので普段から目を細めるようにして、機嫌が悪いのだと勘違いされることも多いわけですが、今はそれに眠気が上乗せされているため、多分私の目つきは終わっています。

周囲からは猫と散歩する不良娘だと思われているのでしょう。

しかし、だからと言って眠気が消えない限りはどうしようもありません。
眠気は寝ない限り消えません。
寝る場所を確保するためには、宿の人と会話しなければなりません。

普段の状態でも緊張するというのに、こんな状態ではきっと会話にならないレベルで酷いものとなるでしょう。
どうすればいいのでしょう。

私は、それに対する答えを出せないまま足を動かし続けました。

脳が働いてなさすぎて、さっき決めた海岸に向かうという目的を果たすために勝手に体が動いていました。

「ねぇ、バウワウ。眠い」
「僕も」
「不良娘だと思われてるのかしら」
「なんの話?」

「え?」
「にゃ?」

「どうしたのバウワウ。今日も黒いわね。黒猫って黒いわね」
「そりゃそうさ。僕は毎日毛繕いを頑張ってるからね」

「偉いわね。私なんて好き嫌いせずに食べることですら嫌なのに」

「でも、きっといつかアルマにも日光浴が楽しいと思える日がくるさ」

「え?」
「にゃ?」
酷い会話です。
眠すぎて、頭が働いてなさすぎて会話が終わっています。

あぁもう駄目だ。
倒れる……。

バランスを崩して前のめりに倒れかけた時、ふと地面の感触が変わったことに気づいてなんとか踏みとどまりました。

「あ、砂……。砂浜……」
いつの間にか私は海岸に到着していました。

私は達成感に包まれ、いよいよ眠気が限界に到達して、意識を失って砂浜にぶっ倒れました。

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