結婚の宣言
ついにダンスの時がやってきた。カチコチに固くなっているレティシアはマティアスにうながされて舞踏会場の真ん中に立った。
レティシアたちを待ちかねたように楽団が音楽を奏でる。マティアスはレティシアをリードしながら踊ってくれた。最初は恐々だったレティシアも、次第に楽しくなってきた。
第一王子が踊り出したのを皮切りに、他の貴族たちもダンスに加わった。
ダンスが終わるとマティアスはレティシアをうながして壇上に上がった。
「親愛なるザインの貴族たちよ、この日を共に祝ってほしい。私はギオレン男爵家レティシア嬢との結婚を宣言する」
会場の貴族たちは一斉に盛大な拍手をおくった。
レティシアとマティアスは会場を出てバルコニーに移動した。貴族たちから次々とあいさつをされて人酔いをしてしまったからだ。マティアスはレティシアを気遣い、外の風にあたらせてくれたのだ。
「レティシア嬢、慣れない事をさせてすまない」
「いえ。わたくしも早く慣れるようにいたします」
マティアスは小さく微笑んでから言葉を続けた。
「レティシア嬢はこのザイン王国をどう思われますか?」
「?。はい、とても豊かで平和な国だと、」
「ええ。表面上はそうですね。ですが、我がザイン王国は今大変な窮地に立たされているのです」
これがマティアスがレティシアと結婚したい理由だろう。そのためにマティアスはギオレン男爵に安くはない結婚資金を出したのだから。
マティアスは夜空の月を眺めながら、穏やかな声で話し出した。まるで明日の天気は晴れのようだとでもいうように。
「ザイン王国はイグニア国とゲイド国に挟まれている国である事は知っていますよね?」
レティシアは無言でうなずく。レティシアが住んでいるザイン王国は、広大な領地を持つ国だが、イグニアとゲイドという小国に挟まれている。
イグニア国とゲイド国とは和平協定を結んではいるが、ここ数年イグニアとゲイドの動きがきな臭いというのだ。どうやら両国は手を組んでザイン王国を侵略しようとしているらしい。
マティアスは先手を打ち、イグニアとゲイドを打とうと考えているのだ。マティアスはレティシアを手に入れ、霊獣の力を軍力に利用しようとしているのだ。
本来霊獣とは心の清らかな生き物だ。人間ごときのくだらない争いに興味は示さない。だが人間である召喚士と契約した霊獣は召喚士を心から愛しているため、人間に手助けをしてくれるのだ。
レティシアはマティアスの力になりたいと思った。だがそれと同じくらい霊獣チップに対して罪悪感も感じていた。
「マティアス王子殿下。わたくしの契約霊獣はとても心が優しいのです。ですから、たとえ敵国の人間でも、殺す事はできません」
「それは勿論心得ています。レティシア嬢と霊獣殿は、我らザイン国軍の後方から支援をしてくれればいいのです。お願いです、レティシア嬢」
マティアスの真摯な願いに、レティシアはうなずいてしまった。