レティシアの婚約者
しばらくしてレティシアの婚約者が決まった。レティシアは覚悟していたとはいえきがきではなかった。
一体どんな男が自分の夫になるのだろう。年老いた貴族の側室か。不安になっているレティシアに対してチップは楽観的だ。
『レティシア。もし結婚相手が嫌な奴だったら言って?結婚相手がレティシアの寝室に入ってきたら、僕が魔法で眠らせて適当な記憶を植えつけてやるから。次第にレティシアの寝室に来ないようにしてあげる。機会をみて逃げ出しちゃおうよ』
「ありがとう、チップ。あなたがいれば心強いわ」
『まかしといてよ!』
得意そうに胸をはるチップが可愛くて、レティシアはクスクス笑った。
数日後男爵から、一番上等なドレスを着るようにと言われ、仕方なくサラというメイドに支度を手伝ってもらった。
サラは臆病で物静かなメイドで、レティシアのいじめにも加担しなかったので、彼女に悪い感情はなかった。
「サラさん。手伝ってもらってありがとうございます」
「何をおっしゃるんですか?お嬢さま。メイドとして当然の事です」
サラは手際よくレティシアの髪を結い上げてくれる。レティシアがサラと親しくなれば、レティシアが屋敷からいなくなった時、メイドたちのいじめの標的になるのは間違いなくサラだ。
支度が終わってから、レティシアはサラに向き直り、真剣な表情で言った。
「サラさん、お願いがあります」
「はい、何なりとお嬢さま」
「私の支度が終わった後、メイドたちがサラさんに私の態度がどうだったか執拗に聞いてくると思います」
「・・・、」
「だから、レティシアは私に嫌味を言ったり嫌がらせをしたりして、とても嫌な女だった、と言ってください」
「!。お嬢さま!?何故そのような嘘を!」
「サラさんをいじめから守るためです。私はもうすぐ男爵さまの決めた結婚相手の元に行くため、この屋敷を出ていきます。そうなればメイドたちの怒りの矛先は、弱い立場のサラさんに向けられるはずです。だけど私の悪口を言えば、私の事が嫌いなメイドたちは喜んでサラさんを仲間に迎え入れてくれるはずです」
「・・・。お嬢さま、私のために。申し訳ありませんでした。私はレティシアお嬢さまがいじめられている時、助ける事をしませんでした」
「当然です。あの時の私をいじめるなと意見すれば、サラさんが次の標的にされてしまいます。私はサラさんがいてくれるだけで、心の支えになったんですよ?」
サラは目に涙を浮かべた。レティシアは彼女の手を優しく握った。
レティシアが客間に行くと、相手の男性はすでに到着していた。
初めて彼を目にした時、レティシアは息を飲んだ。それほど美しい青年だったからだ。
彼はプラチナブロンドの髪にサファイヤのような透き通った青い瞳をしていた。側のイスに座る醜い男爵と比較してしまうとさらにだ。
レティシアがあいさつをすると、美青年はレティシアの足元にひざまづいて言った。
「初めましてレティシア嬢。私はマティアス・アルドワンです」
「えっ?!アルドワンって」
「はい。私はザイン王国の第一王子です」