疑念2
レティシアがベッドに横になると、すかさずチップが枕元で丸くなった。レティシアは微笑んでベッドの横にあるチェストの上のランプの火を弱めた。
室内がぼんやりと暗くなる。レティシアは眠りがおとずれないまま、ぼんやりと考え事をしていた。
召喚士についてだ。レティシアの母クロエは、召喚士に必要な素質は美しい心だといっていた。レティシアは母の教えを守り、相手からどんなひどい事をされても恨まないように過ごしてきた。その甲斐あってか、レティシアはチップと契約する事ができた。
チップと契約した事により、レティシアはチップと心を共有するようになった。チップは心の底からレティシアを愛してくれいるのだ。
チップの目を見れば、レティシアの事が大好きで大好きで仕方ない事がよくわかる。レティシアだってそうだ。チップの事が大好きで大好きで涙が出そうなくらいなのだ。
レティシアは天国の母と同じくらいチップの事が好きなのだ。
そんなレティシアに一つの疑問が頭に浮かんだ。母クロエは娘のレティシアがお世辞抜きにしても素晴らしい人だった。
困っている人がいれば、すぐに駆け寄って助けようとする人だった。血のつながりのないレティシアを引き取って、実の子供のように可愛がってくれた。
クロエがギオレン男爵と再婚したのも、すべてレティシアのためだった。貴族の養女になれば高い教養と教育が受けられると考えたからなのだ。
そんなクロエが霊獣から契約解除などされるだろうか。レティシアの疑問は確信に変わろうとしていた。
「ねぇ、チップ」
『なぁに?』
チップは眠たいのか、ぼんやりとした返事だ。
「お母さんが霊獣に契約解除されたのは嘘ね」
それまでウトウトしていたチップがギクリと身体を固くした。
『な、何を突然言い出すの?レティシア』
「だって、お母さんは実の子供じゃない私のために生きてくれた人なのよ。そんな人、霊獣が見放すはずないじゃない。私、チップと契約して疑問が確信に変わったの。お母さんは霊獣と契約解除なんかしてなかった」
『・・・。レティシアが言うならそうかもしれないね。僕はレティシアのお母さんに会った事がないけど、レティシアのお母さんだもの。きっと素敵な人だったろうね』
「・・・。うん、ありがとうチップ」
チップは何かをレティシアに隠している。チップはいつもレティシアのために何かしようと考えてくれている、チップが話せないのならば、無理に聞き出す事はしたくない。レティシアはこわばったチップの身体を優しく撫でた。
「チップ、眠ろうとしていたのに起こしちゃってごめんね?お休みなさい」
『大丈夫だよ。おやすみ、レティシア』
レティシアはチップの小さなおでこにキスをして目を閉じた。