13
林に足を踏み入れてから、しばらく無言で進んだ。道という道は無く、そのうち迷路にでも迷い込んだ気分になった。静まり返った中、枝を踏んだ時のパキパキという音が響く。
「おい中条、なんで電気消してんだ。足元が見えないだろ」
「虫が寄ってくるからよ」
早坂さんが代弁してくれた。
「虫・・・ってそれがどうした」
「怖いのよ」
「・・・正気か?」
「ダメなんです。虫だけは。昔から。ぜったい」
「何がだ?何も悪さしてこないだろ」
「見た目がもう無理です。とくに蛾と蜘蛛は・・・バッタも、セミも、トンボも・・・」
「お前、ムカデに飛び乗ってたよな」
「・・・あの時は、勝手に身体が・・・」
あの大きな触覚の感触を思い出して、鳥肌が立った。今吐けと言われたら吐ける。
「理解できん」
「まあ、それに関してはある意味同感よ」
そう言いながらも、早坂さんはわたしの前を歩き道導となってくれている。
「この服、いいですね。少々の虫なら飛んで来ても平気かも」
前から呻くような溜め息が聞こえてきた。
「用途が変わってきたわね」
「おい、あそこ」 瀬野さんが言い、足を止めた。
瀬野さんが電灯の灯りで示した場所に、木が倒れているのが見えた。近寄ると、長くまっすぐな木が何個も横たわっている。
「このままかよ」
「仕方ないわよ。逃げれただけ良しよ」
早坂さんと瀬野さんが辺りを見回すが、これといって変わった物は見えない。
その時、後ろのほうでガサっと物音がした。驚いて振り返ろうとした拍子に何かにつまずき、そのまま尻もちをついてしまった。
「アタタ・・・」
「ちょっと、大丈夫?」
「はい、何かにつまずい・・・」ふと、地面についた手に感じる何か。瀬野さんのライトによって、それが見えた。「ギャ──!!」思いきり振り払い、目の前の物に飛び付いた。
「・・・ほんと、今日はずいぶんと積極的ね」
我に返り、早坂さんの身体に回した腕と脚を離す。
「スミマセン・・・」
「あたしは大歓迎だけど」口調がニヤついている。「大丈夫?怪我はない?」
「はい、全然」
「何か見えたのか?」
「虫が、見た事ないようなデッカイ虫が手に・・・」
瀬野さんは言葉の代わりに呆れ全開の息を吐いた。