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それから30分程車を走らせると、ガラリと景色が変わった。オフィスビルのような高い建物は見当たらなく、一軒家が広い間隔で建っている。そして、それを囲む山々。昼間だったら緑豊かな景色が見れただろう。
早坂さんは車の速度を20キロまで落とし、携帯を見ながら舗装されていない砂利道をゆっくりと進んで行く。
「川に架かる橋って、コレの事よね」
「たぶんな。しかしボロい橋だな。渡ったら崩れ落ちるんじゃないか」
「・・・怖い事言わないでくださいよ」
車1台分の幅の橋を渡り、更にまっすぐ進むと何もない広場が出てきた。ここで行き止まりだ。早坂さんは山のほうに向かってまっすぐ車を停めた。
「ここからは歩きね」
「あ、山って言うからもっと高い所に行くんだと思ってました」
「そうね、山って言うより森林ね」
「けっこう歩くんですか?」
「現場まではここから北へ50メートルくらいって話だけど、目印になる物もないからわからないわ。まあ、歩いてればそのうち出てくるでしょ」
そんな、探し物みたいなノリでいいのか?
車を降りた早坂さんはトランクから懐中電灯を取り出し、わたしと瀬野さんにそれぞれ渡した。前回のヘッドライトじゃなくて、ちょっと安心する。
そしてもう1つ、わたしに差し出した。
「なんですかコレ」受け取り、広げる。「割烹着?」にしては生地が厚く、重い。
「防炎服よ。火に強いから」
「・・・コレを、着ろと?」
「ええ、念には念をよ」
「・・・お2人の分は?」
「あたし達はいらないわ。そんな簡単に燃えないわよ」
その自信の根拠をお聞かせ願いたい。
どうせ、わたしに拒否権はない。黙ってその"割烹着エプロン"に袖を通した。
「手術室にいそうだな」
ええ、色も青ですからね。早坂さんがわたしに後ろを向かせ、背中の紐を結んでくれた。
「ふふ、可愛いわ」
わたしの中の可愛いという認識が合っているなら、早坂さんは絶対間違っている。
「ずるい・・・なんでわたしだけ」
「ん?何か言った?」
「いえ別に」
「誰に見られるもんでもない、気休めでも着ないよりはマシだろう」
「じゃあ瀬野さんにお譲りします」
「そんなもん着るくらいなら火傷のほうがマシだ」
濁りのない正直さに反論の余地なし。
「よし、行くぞ」