23「戦い、始まる」
俺「じゃあリリン、ここにオリハルコン合金の壁を出してもらえる?」
リリン「お安い御用じゃぁ。【収納】!」
――ででんっ!(目の前に100メートルの輝く壁が立ち現れる音)
クララ「な、ななな何ですかコレは!?」
俺「オリハルコン合金の壁。
壁自体は高さ150メートルで、50メートルの細長い穴に埋まってる。
穴は、8メートル以降はオリハルコンを含んだ岩盤だから頑丈だ。8メートル未満の部分も石材で固めている。
まぁ、オリハルコン・ドラゴンの群れが突進してきても、びくともしないだろうな」
クララ「いったい何と戦っているのですか、レジ様は……」
俺「来たるスタンピードと、だ。
俺とネコたちが好き勝手に魔物を狩ってまわったせいで、森の中の魔物を刺激してしまった。
悪いな、クララ。なんか、かえって危険に巻き込んじゃって」
クララ「いえいえいえ! 村の治安改善も魔物の肉と素材も、おカネも。
すべて我々が望んだことですから。謝らないでください。
そもそもの発端は、あの奴隷商がガブリエラさんたちを使ってオリハルコン鉱山からオリハルコン・ドラゴンを追い出したことじゃないですか」
俺「そう言ってもらえると」
リリン「【収納】! 【収納】! 【収納】!
あははっ。見よ、レジ! まるで一夜城のごとく、次々と壁が現れるぞ!」
俺「はいはい、落ち着いて。
あんまり一気に魔法を使いすぎると、魔力切れで倒れるぞ」
リリン「余はそんな阿呆なことはせぬ。
【収納】! 【収納】! 【収の――あれぇ?(ふらふら)」
俺「わーーーーっ、言わんこっちゃない(慌ててリリンを抱きとめる)」
数日かけて、俺とリリンはエンデ温泉郷をオリハルコン合金の壁で囲った。
当然、大騒ぎになったが、『限りなく【王級】に近い【収納伯】』であるガブリエラががんばった、といういつもの手で逃げた。
リリン皇女殿下は、お忍びの立場だからね。
◆ ◇ ◆ ◇
数日後、父が領軍数百数十名名を連れて温泉郷に入った。
まずは、ソリッドステート辺境伯領が誇る、最も精強な精鋭従士たちが数百名。
このくらいの村の防衛戦となると、それ以上兵力がいても遊兵になってしまい、かえって邪魔になるとのこと。
そして、数十名の【治癒】スキル保持者。
これは、ソリッドステート領軍のほぼ全員だ。
一兵も、そして民間人の一人も死なせない、という父の力強い覚悟を感じる。
領軍は魔の森に向けて張り巡らされたオリハルコン合金製の壁の内側で陣を敷いている。
村は物々しい雰囲気に包まれはじめたが、民間人は減るどころかむしろ増えた。
理由はいくつかある。
スタンピードと聞いて、一攫千金(というか領軍が倒したり弱体化させた魔物を狙ってのハイエナ行為)を夢見た冒険者たちが殺到したこと。
領軍や冒険者たちを目当てにした商人たちが殺到したこと。
これは、兵站力に限度があり、かつスタンピードがいつ発生するやも分からない領軍にとっては、むしろ助かっていた。
そして、温泉客が増えた。
軍は予行演習のため、冒険者は稼ぎのために魔の森に入り、汗をかく。
商売に励む商人たちも、汗をかく。
その汗を、アズマさんの旅館の大浴場で流すわけだ。
あとは、物味遊山の観光客も。
危険だと思うんだけど、
『領軍にたくさんの冒険者、そして【剣聖】ブルンヒルドに【剣伯】ガブリエラ、さらには伝説の魔獣をおやつ感覚で狩ってくるネコたちがいるのだから、下手な村や街などよりもよほど安全だ』
という考えらしい。
何より、オリハルコン合金製の城壁の存在が大きかった。
そう、今やリリンは『【天】級に限りなく近い【収納帝】』の力を完全に使いこなしており、村を全周囲まるっと囲めるほどの大量のオリハルコン合金を鼻歌交じりに生成できるほどになっていた。
アズマ食堂の『ホール地獄』を生き抜いたことからも分かっていたが、このお姫様、とんでもねー学習力を持っている。
そうして、さらに1週間後。
ついに――
伝令兵「魔の森にてスタンピード発生! 第一波、来ます!」
戦いが、始まる。