17「温泉回」
俺「前回のあらすじ!
井戸掘ってたら温泉を掘り当てた! 何を言っているのか分からねーと思うが、俺も何を言っているのか分からない!」
――カポーン
俺「湯船掘りも石材敷き詰めも水路引きも【収納】で一瞬。
半日でなんちゃって露天風呂の完成だ。便利だなぁ【収納】」
――ちゃぷん(誰かが湯に入ってきた音)
メイド「何をぶつぶつとおっしゃっておいでで?」
俺「おうメイド。お前も入ることに――って、わーーーーっ! 前隠せ前!」
メイド「何をおっしゃいますか。レジ坊ちゃまを産湯に浸けたのは、このメイドなのですよ?
お風呂だって、ずーーーーっと一緒に入っていたではありませんか。
これからも一生、お背中をお流しし続けますよ」
俺「デカいデカい。
いちいちエピソードと感情がデカいんだよメイドは。初手産湯て」
――ちゃぷん
ガブリエラ「ウチらもお湯もらいますね、ご主人様」
俺「聞いてくれよガブリエラ、メイドったら裸で――って、わーーーー! 前隠せ前!」
ガブリエラ「にゃにを恥ずかしがっているんですか。獣人の村じゃ、混浴にゃんて当たり前ですよ」
俺「カルチャーショック!」
――ちゃぷん
クララ「あのぅ。レジ様、私もご一緒していいですか?」
俺(ま、まさか)
俺「前隠して! クララだけはシャレにならない!」
クララ「え、水着着てますが」
俺「……え? あ、あぁ、そう」
俺(ホントだ。地球の水着とは違うけど、ガウンみたいなのを着てる。
それにしても、7歳児が一番の常識人って、どういうことなの……)
メイド「いいお湯ですね、レジ坊ちゃま」
ガブリエラ「うみゃうみゃうみゃうみゃ(湯に浸かりながらオーク肉を喰う)」
ノーラとネコたち「「「「「いい湯だにゃ~」」」」」
クララ「いいお湯ですね、レジ様!」
俺(それにしても、非モテの俺が、美女・美少女12人に囲まれてる。
まさかこれが、ハーレム!? あのテキトーな女神様が、俺の願いを叶えてくれたのか?
いや、あのクソテキトーな女神に限って、それはないな。こりゃただの偶然だ)
クララ「あの、レジ様」
俺「んお、どした?」
俺(上気しているせいか、色っぽいな。将来、美人になるんだろうなぁ)
クララ「この温泉、村のみんなにも開放して良いですか?」
俺「そりゃ、構わないよ。村の資産なんだから」
クララ「掘ってくださったのはレジ様ではありませんか。
まぁ、そう言ってくださると思っていたからこそ、私もお尋ねしたのですが。
水問題も、解決してしまいました」
俺「そうだな。ろ過すれば飲水にもなるし。
ガブリエラが【目録】で不純物を取り除いたことにして、真水を大量に保管しておくこともできるし」
クララ「お水も食料もおカネも驚くほど潤沢。こんなに余裕のある状態、ちょっと前までは想像もできませんでした。
何もかも本当に、レジ様のお陰です。
それで、もう一つ相談が」
俺「おうよ」
クララ「この温泉を、村の観光資源にしても構いませんか?
温泉は、この地方ではとても珍しいのです」
俺「なるほど、秘境の温泉郷か!」
クララ「きっと人気が出ると思います。
そうしたら、温泉客目当てでこの村に店を構えてくれる商人も現れるかもしれません。
そこまでは無理でも、人通りが多くなれば、あの悪徳商人さん以外の行商人も訪れることになるでしょう」
俺「あっ、そうか。行商人の確保は最重要課題だったな。
温泉の衝撃で忘れてた。悪い」
クララ「いえいえいえいえ、お気になさらず!」
俺「やっぱりクララは頼りになるな」
クララ「え、えへへ」
俺「というわけで、メイド」
メイド「そうおっしゃると思って、旦那様に手紙を飛ばしてございます。
明日、領都の不動産屋さんを訪ねましょう。今度はわたくしもご一緒します」
◆ ◇ ◆ ◇
翌日。
領都ソリッドステートにて。
ガブリエラ「にゃははっ。やりますね、ブルンヒルドさん。
ウチの足について来れるとは」
メイド「ぜーっ、はーっ。レジ坊ちゃまをおんぶしていながら、息一つ上がっていないとは!
わたくし、長いメイド生活ですっかり鈍ってしまったようです。鍛え直さねば」
俺「いや、あの距離を数時間で駆け抜けるんだから、ふたりともバケモンだって」
メイドとガブリエラ「「【星】級のバケモノがな/にゃにかおっしゃってますね」」
俺「お前ら仲良いのな」
メイド「メイドは、【暴食】抜きで【剣聖】に落ちた状態のガブリエラさんにすら勝てませんので。
同じ【聖剣】でも、天と地ほどの差があると思い知らされました。
強い者には敬意を払う。当然のことでございます」
ガブリエラ「ウチはこのとおり学がにゃいから、ブルンヒルドさんの頭の良さが羨ましいんです」
俺「ナルホドなぁ。是非、互いに切磋琢磨してくれ」
メイド「何を他人事みたいに。レジ坊ちゃまもお勉強を頑張るんですよ。微分積分」
俺「微分積分はもう嫌だーーーーっ!」
メイド「まったく、子供みたいに駄々をこねて……そう言えば子供でしたね。
見えてまいりました。このホテルです」
――ガヤガヤ、ザワザワ
俺(人通りの多い、大きな街道だ。こんな好立地で倒産するなんて、どんなホテルだ?)
俺「でっっっっか。けど、なぁんかホテルっぽくねぇな?
言うなればこれは……そう、旅館!」
メイド「リョカン……が何かは存じ上げませんが、帝国風の建築様式でないのは確かです。
この宿の元オーナーの祖先は、遠く遠く東の島国出身だったとか」
俺(ジパング!)
不動産屋「お待ちしておりました!」
青い顔の男「…………」
俺「ええと、この方は?」
不動産屋「このホテルの元オーナーです」
俺「あ、あぁナルホド」
俺(借金だか何だか知らないけど、土地を売らなくちゃならなくなった人か。
でも、土地を売ろうにもこの建物を取り壊すだけのお金すらない、と。不憫な。
それはそうと、懐かしい東洋顔だな。祖先が『東の島国』出身ってのは本当のようだ。
ってことは――)
俺「ねぇ元オーナーさん」
元オーナー「は、はい。何でしょう」
俺「おコメ、炊けますか?」
元オーナー「そりゃ炊けますよ。旅館を運営していたんですから」
俺「ってことは、コメの入手ルートをご存知なんですね!?
教えてください。領都では、どこを探してもコメが売っていなくて」
元オーナー「残念ですが、入手ルートは極秘なんです。
水田をやれる地域が、帝国では限られていましてね」
俺「そこをなんとか!」
俺(オーク肉は美味いけど、パンで食べるのにはもう飽きたんだ。
豚なら豚丼だろ!? ホカホカの白米でかき込んでこその豚肉だろ!?)
元オーナー「無理を言わないでください。
この土地を売ったカネで、小ぶりながらも小料理屋をやるつもりなんです」
俺「ちょっと失礼。
おいメイド、この人を誘致するってはどうかな?(ひそひそ)」
メイド「そんなにおコメが食べたいんですか?(ひそひそ)
変わったレジ坊ちゃまですね……(ひそひそ)」
俺「それもあるけど、俺らには宿を運営するノウハウなんてないわけじゃん?(ひそひそ)
けど、カネならうなるほどある。主にオリハルコン的な意味で(ひそひそ)」
メイド「領主名代たるレジ坊ちゃまがそうおっしゃるのなら」
俺「あーでも、一応クララにも相談してみるか」
ガブリエラ「えーっ、今から村に戻るんですか!?」
俺「今日中にもう一往復できる?」
ガブリエラ「さすがにご無体にゃ……」
俺「だよなぁ、うーん。
不動産屋さん、ちょっとだけ席外しますね」
不動産屋「はい」
俺たちは裏路地に入る。
俺「お前ら、【瞬間移動】とか【テレパシー】的な魔法、使えたりする?」
ガブリエラ「そんにゃの使えるにゃら、ご主人様をおんぶしてにゃん時間も走ったりしにゃいです」
メイド「右に同じでございます」
俺「だよなぁ。うーん……
要はエンデ村にいるクララとの距離がゼロになればいいわけだろ?」
何となく、俺はエンデ村の方角に手をかざす。
俺「クララとの距離を【収納】! なんちゃって」
――ブゥン(Web会議システムみたいなウィンドウが表示される音)
俺たち「「「出たぁぁぁあああああああああああああああああああああッ!?」」」
ウィンドウの中のクララ「きゃあっ!? えっ何……この、何!?」
全員「「「「……………………」」」」
俺「あー、えっと。お疲れクララ」
クララ「レジ様!? これはいったい? この、窓みたいな物の中にいらしゃるんですか?」
俺「違くて。領都から『架』けてるんだ」
クララ「『掛』けるって、何を?」
俺(そうか。この世界には電話がないから)
俺「うーん。まぁ、ちょっと急ぎでクララと話したくてさ。
村と領都の『距離』を【収納】したんだ」
クララ「距離を、【収納】!? そんなことができるんですか!?」
俺「なんか、やってみたらできた。
それで、話っていうのは――」
クララ「待って、ちょっと待ってください。
レジ様が毎度とんでもないことをしつつも淡々と話を進めるのはいつものことなんですけど、今回のはさすがに。
……ふぅ、落ち着きました。それで、お話というのは?」
俺(この子も大概、状況に順応するのが早いよな)
俺「温泉宿。100人くらい泊まれる立派なやつがゲットできたんだけどさ。
でも、村には宿屋運営のノウハウ――経験がないだろ?
宿屋の元オーナーを雇おうと思うんだけど、どうかな?」
クララ「身元や人格は確かなんでしょうか?」
俺「それは今から面接するよ」
クララ「レジ様が良いとご判断なさった方なら、喜んでお受け入れいたします」
俺「おっけ。ありがとな」
――シュンッ(ウィンドウが消える音)
俺たちは旅館前に戻る。
俺「やぁやぁ、失礼しました。
じゃあガブリエラ、【収納】頼めるか?」
ガブリエラ「はいですにゃ。せーのっ、【収納】!」
俺(【収納】!)
――シュンッ!(百人泊まれる巨大な旅館が一瞬で消えた音)
俺(無詠唱でもいけたな。まぁ【収納星】なんだから、そりゃそうか)
――ざわざわっ
通行人「え、何今の!?」
通行人「建物が消えた!?」
不動産屋「みなさん! こちらは【収納王】に限りなく近い【収納伯】をお持ちの冒険者ガブリエラ・オブ・バルルワ殿です。
旅館が消えたのはガブリエラ殿の【収納】魔法によるものですので、どうかご安心を!」
通行人「すげぇ」
通行人「【王】級だって!?」
通行人「バカ。【王】級に限りなく近い【伯】級だってよ」
通行人「【伯】級でもすげぇだろうが。
【収納】ってザコスキルだと思ってたけど、【伯】級ともなればとんでもなく便利なんだな」
元オーナー「あぁぁ……先祖代々の旅館が」
俺「改めまして、元オーナーさん」
元オーナー「あっ、これは失礼を。あの旅館は、既にアナタ様の所有物になったというのに」
俺「いえいえ。お気持ちお察しいたします」
俺(子供相手に、丁寧な人だな。あれか、俺がソリッドステート家の子息だと知っているっぽいな。
まぁ知っていなくても、メイドと【収納伯】を従えているところを見れば、身分は察するか)
俺「折りいってお話があるのです。そこのカフェでお話できませんか?」
俺(大人相手に初めての交渉。緊張する!)